第3章79話:地下牢の戦い

地下の階段をゆっくりと下りる。


やがて地下にたどりついた。


道が二つに分かれている。


―――右の道には扉がある。


―――左の道は、地下牢となっているようだ。


クリスタベルがつぶやいた。


「どうやら目的の場所にたどりついたようね」


「ああ」


俺たちは地下牢のほうへと足を進める。


地下牢にはひんやりとした空気がただよっていた。


足元には、ほこりが積もっている。


古い地下牢である。


しかし最近使われた形跡もあった。


果たしてティーナの父はいるだろうか?


俺たちは一つ一つの牢を確認しながら、地下牢を歩いていく。


曲がり角があった。


かどの向こうをクリスタベルがのぞく。


「……魔族がいるわ」


と小声で報告してきた。


俺も角の向こうをのぞくと、確かにクリスタベルの言う通り、魔族が一匹いた。


距離にして15メートルほど先の位置だ。


右手に槍を持って、何をするでもなく突っ立っている。


左手のランタンが、周囲の闇を照らしていた。


おそらくあの魔族は、地下牢の見張りだろう。


クリスタベルが小声こごえで言った。


仕留しとめるわ」


クリスタベルが短槍たんそうを構える。


そして彼女は走り出した。


風が疾駆しっくするようなスピードで、クリスタベルが魔族に接近する。


魔族が目を見開く。


しかし、クリスタベルがあまりに速過ぎて、魔族は槍を構える暇すら与えられない。


そのままクリスタベルは魔族のふところに入ると、胸部きょうぶ一突ひとつきした。


「っ!!?」


苦悶に顔をゆがめる魔族。


さらにクリスタベルが、魔族の胸から短槍を引き抜くと、続いて脳天のうてんにも突き刺す。


最後に首を切り落として、完全に絶命ぜつめいさせた。


(すさまじい早業はやわざだな)


と俺は思った。


ここまで2秒にも満たない時間だった。


られた魔族も、何がなんだかわからないまま死んだだろう。


「終わったわよ」


とクリスタベルがこちらに向かって告げてきた。


俺はクリスタベルに近づく。


「ご苦労さん」


と声をかける。


クリスタベルは俺には目を向けず、牢の一つに視線を向けている。


「そこに誰かいるわ」


「……!」


俺とクリスタベルは牢に近づく。


確かに、牢の中に誰かとらわれているようだ。


冒険者がよく着るような旅装束たびしょうぞくに身を包んでいる男。


「あなたたちは……」


と、その男は声を漏らした。


俺は尋ねた。


「あんた、ティーナの父か?」


「……!!」


男は強く息を呑む。

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