第3章76話:窓

クリスタベルは砦を避けて、崖のほうへ向かおうとするが……


俺は呼び止めるように、告げる。


「いや、まずは砦の地下にいきたい」


「……? 地下に何かあるの?」


「実はな――――」


と俺は、ティーナに依頼を受けたことを説明した。


ティーナの父親が、砦の地下牢に閉じ込められているかもしれないこと。


そして。


「地下から崖の洞窟どうくつ内部ないぶに入れるらしい。砦の地下から、洞窟へつながっているんだと」


俺がそう語ると、クリスタベルは以下のように推測を述べた。


「なるほど。それはおそらく魔族の脱出経路だっしゅつけいろね」


「脱出経路?」


「ええ。たとえば誰かに洞窟を襲撃されたとき、逃げ道が必要でしょ? その逃げ道の一つが、地下通路ってことよ」


……ふむ、なるほど。


洞窟から砦のほうへ逃げる通路ということか。


納得のいく推理である。


「とにかく、その父親を探しにいくのね。了解したわ」


「手伝ってくれるのか?」


「もちろん。人助けも、あたしの範疇はんちゅうだから」


なるほどな。


クリスタベルは、なかなかのお人好ひとよしのようだ。


さすが精霊が見込んだ人材である。


「じゃあ、まずは砦に侵入するところから始めましょうか」


クリスタベルがそう言って、砦へと視線を向けた。


俺は告げる。


「できれば静かに侵入したいところだな。堂々と正面から入るのではなく、魔物がいないところを狙って入ろう」


俺たちはロムズとりでへと近づくことにする。


周囲に魔族の見張みはりなどはいないようだ。


しかし念のため、移動の際は、足音はできるだけ立てないようにした。


砦の壁まで来る。


砦の窓はガラスりなので、中の様子がうかがえる。


俺たちは手近てぢかな窓から砦内部とりでないぶをのぞく。


「中は暗いけど……月明つきあかりがあるから、全く見えないわけではないわね」


クリスタベルの述べた通り、砦の内部には月光が射しこんでおり、意外によく見えた。


俺は念のために【夜目】スキルを使って、暗くても見えるようにしておく。


俺たちが最初にのぞいた場所はリビングであり、魔物の姿があった。


どうやらウルフが住み着いているようだ。


俺は告げる。


「別の部屋を見てみよう」


「そうね」


そうして砦の壁に沿って歩きながら、窓をのぞいて中の様子をうかがう。


どこもウルフや植物系しょくぶつけいのモンスターがたむろしている。


―――しかし、やがて魔物のいない部屋を発見した。


そこは、内装からしておそらく砦の執務室しつむしつだ。


「どうやら、この部屋に魔物はいないようね。ここから入りましょう」


「ああ」


俺は同意した。


執務室のガラス窓は半分ほど割れていた。


その割れた部分に手を入れて、窓の内側にある窓鍵まどかぎ解錠かいじょうする。


窓が開いた。


中に入る。



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