第3章58話:騎士

女騎士がつぶやく。


「全滅……したのか」


困惑の色をあらわにしている。


兵士たちも、困惑していた者もいるが……


安堵のため息をついて、その場に座り込む者もいた。


みんな汗まみれで、よほどの激戦を強いられていたことがわかる。


「そこの者」


女騎士が俺を見上げて、呼びかけてくる。


俺は丘を下りて、女騎士へと近づいた。


彼女たちの前で立ち止まる。


女騎士の実直そうな瞳が俺を見つめる。


「名を聞いてもよろしいか?」


「……フロドです」


敬語で答える。


騎士にタメ口は無礼に当たるからだ。


「フロドか。私はヴェルニカ・ハールヴァンだ。このたびは助けてもらったことに感謝する。本当に危ないところだった」


「いえ……みなさん無事でよかったです」


俺は兵士たちを見回した。


疲弊ひへいしている者や、怪我をした者はいるが、重傷者や死者はいない。


死人が出る前に助けられて良かった。


「で、あちらの馬車は、フロドの?」


ヴェルニカは俺たちの馬車に視線を向ける。


「はい。俺の仲間です。おーい!」


メリーユとネリーが、遠くからこちらの様子をうかがっていたので、俺は手を振って呼んだ。


するとネリーが馬車を引き、メリーユが徒歩でやってくる。


「待たせたな、メリーユさん。ネリーさん」


俺がそう言うと、メリーユが肩をすくめた。


「遠くから見てたけど、とんでもない戦いぶりだったわね。まさかあれだけのコボルトを、一人で蹴散らしちゃうなんて」


メリーユの言葉に、ネリーも同調する。


「フロドさんは本当にすごい人なんだって、改めて理解したよ」


「……大したことはしてないさ」


と俺は述べた。


ネリーが馬車を降りてから尋ねる。


「怪我人は……いるみたいだけど、重態ではないようね。全員無事だったってことかな」


ネリーの言葉に、ヴェルニカがうなずく。


「ああ。フロドのおかげでな。……ところで三人は、エルクスの街へ向かっているのか?」


その問いにメリーユが答える。


なお騎士が相手のため、敬語である。


「ええ、そうです。私たちは、ユレット村から街道を通ってきた次第で」


「ほう。ユレット村の者か」


ヴェルニカがそう納得しようとすると、ネリーが補足した。


「ああ、フロドさんだけは違いますよ。彼は旅人で、あたしたちの護衛を担当してもらってます」


「なるほど、そういう関係か。……ともかくエルクスにいくなら、私たちと同行してはどうかな?」


同行?


俺が首をかしげると、ヴェルニカは言った。


「今回の件について、礼をせねばならんからな。私たちの拠点はエルクスにある。よければ一緒に来てほしい」


そういうことなら、断る理由はないように思えた。


念のためメリーユたちに確認を取る。


二人も問題ないとのことだった。


俺は答えた。


「では、同行させていただきます。よろしくお願いします」


「ああ、よろしく」


こうして、兵士のみなさんとともに、俺たちは旅をすることになった。




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