第2章53話:メリーユ視点

<メリーユ視点>


メリーユは、端のほうのテーブルに座っていた。


対面にはネリーが着いている。


お互い、樽ジョッキに入ったお酒を飲み交わしていた。


隣では、余興よきょうとして腕相撲うでずもうもよおされていて、歓声かんせいが上がっていた。


「みんな盛り上がってるね」


ネリーがしみじみと言った。


メリーユはあいづちをうつ。


「ええ、そうね」


「こんなに村が活気づいたのって、ずいぶん久しぶりな気がするな」


そうかもしれない。


今日は今年一番の活気に満ち溢れているのは、疑いようがないからだ。


それもこれも、全部、フロドのおかげである。


「フロドさんって、本当にすごいよね」


ネリーは肉を食べながら言った。


「やっぱり、上級の冒険者なのかな?」


「どうかしら」


メリーユが覚えているかぎり、フロド自身は、冒険者ではないと言っていたような気がする。


「超一流のアイテム職人ってセンもあるよね」


とネリーが推測を述べる。


「……そういうのは詮索しないほうがいいわよ」


「でもメリーユだって気になってるでしょ」


もちろん、気になっている。


気にならないわけがない。


とんでもない容量のアイテムボックスも。


一瞬でポーションを作ったスキルも、そのポーションの性能の高さも。


大量のランドウルフと、ランドウルフ・マザーを倒した腕前も。


全てにおいて常識を越えている。


フロドはまさしく規格外だ。


あんな旅人は見たことがない。


いったい何者なのだろうか?


「……」


いずれにせよ、確かなことがある。


フロドが、ユレット村を危機から救ったということ。


彼は、この村の英雄。


もしも彼がいなければ、ガンドは怪我で死んでいただろうし……


村はランドウルフの大群に襲われて、破滅していた可能性もある。


けれどガンドは完治したし、マザーが討伐されたことで、これ以上ランドウルフが増殖することもなくなった。


それらは、フロドのおかげである。


この感謝の気持ちは、忘れてはいけないだろう。


(でも……魔族か)


メリーユは、フロドに報告されたことについて考える。


ランドウルフの件は終わったが……


全体としては、まだ問題は解決していない。


むしろ、魔族が裏で暗躍しているのだとしたら、より大きな問題があらわになったといえる。


村の安全のために、自分ができることは何か?


メリーユは静かに黙考する。


そんなメリーユに、ネリーが言った。


「おーい。メリーユ? 飲んでる?」


「……ええ。飲んでるわよ」


「珍しく考え事かな?」


「村長として考えなきゃいけないことが多いからね」


苦笑しながら、お酒をあおった。


今ばかりは、難しいことを考えるのはやめて、宴を楽しもう。


メリーユはそう思った。


こうして、夜は更けていく。



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