第2章52話:宴2

その中年男性は言った。


「俺のことを覚えてるようだな」


俺はうなずきながら答える。


「そうだな。村に来たばかりのとき、少し話したよな」


「おう。俺はダウドってんだ。あんたはフロドっていうんだろ?」


「ああ」


と俺は肯定する。


ダウドは言った。


「あのとき以来、何度かあんたに話しかけようと思ったんだけどな。他の村人に囲まれて、大変そうだったからな」


「ははは……そうだな。ありがたいことだが」


「まさかあのとき話した旅人が、この村を救ってくれるなんてな。驚いたさ……おっと、雑談をしにきたわけじゃなくてだな。俺も礼がしたかったんだよ。こいつを貰ってくれ」


ダウドが青色に光る石を取り出してきた。


俺は首をかしげる。


「これは?」


断魔石だんませきと言うんだ。アイテムの素材になるもので、そこそこ高価なものらしい」


断魔石か。


魔を断つ石……と書いて断魔石。


使いどころは限られるが、減魔石と同じで、破魔の効果を持つ石である。


そのまま使うのではなく、武器や防具の素材として用いられるものだ。


「そんなものをもらっていいのか?」


「ああ。俺には使い道がないからな。あんたはアイテム職人だろ? だったらあんたが持っていたほうがいいと思ってな」


そう言ってダウドが断魔石を手渡してくれた。


「ありがとう。いずれ、機会があれば使わせていただく」


「ああ、そうしてくれ」


ダウドはそう告げる。


実際、断魔石は魔族に有効だ。


今後使う機会はあるかもしれない。


話が一区切ひとくぎりしたので、俺は思っていたことを尋ねた。


「そういえばさっきこのスープ、特産だと言ってたな?」


「ああ。知らないかもしれないが、うちの村にはユレット草という特産品があってな」


……ユレット草。


聞いたことがあるな。


「あんたがランドウルフを倒してくれたおかげで、また採取さいしゅできるようになったんだよ。今回の宴で使われているユレット草は、今朝けされたばかりのものだ」


ダウドは、言いつつ、スープを指差した。


「こいつはユレット草を使って作ったユレットスープだ。胡椒こしょうのような味わいがあって美味うまいんだ。まあ、さすがに本物の胡椒を入れたスープには敵わないだろうがな。ははは!」


いや、俺は実際の胡椒で味付あじつけしたスープよりも、こちらのほうが好きかもしれない。


さっぱりとして口当たりがよく、飲みやすい。


いくらでも飲めそうだ。


「さて、邪魔しちゃ悪いし、俺はそろそろいくぜ。ごゆっくり」


「ああ」


ダウドは去っていった。


俺はその背中を見送ってから、飲み物を口に運ぶ。


おお、これは村長宅で飲んだやつ。


植物酒だ!


今日は俺が主役ということだし、好きなだけ飲み明かすとしよう。



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