第2章51話:宴の開始

村のうたげ


あかりとして篝火かがりびがあちこちに立っている。


その炎が、夜の闇をめらめらと照らしていた。


メリーユが簡単に乾杯かんぱいの挨拶を済ませる。


それからいが始まった。


野外やがいに並べられたテーブルに座って、俺は食事を始めようとする。


「フロドさん!」


と、さっそく人が集まってきた。


ものの数十秒すうじゅうびょうで、俺は村人たちに囲まれてしまう。


「本当にありがとう。あなたには感謝の念が尽きないわ」


「これ、貰っていってくれ」


「オレの採った山菜も貰ってくれ。今日の昼にとってきたんだ!」


「うちの自慢の野菜もね」


どんどん食事を置いていってくれる。


そのおかげで、俺の周りだけ、料理がてんこもりになってしまった。


こんなに食べられない。


どうしたものか、と思っていると、ガンドとリュクスンがやってきた。


「ははは。人気者じゃないか、フロドさんよ」


「あはは……ありがたいが、さすがに食べられないな。この量は」


「みんなフロドさんにお礼がしたくてしょうがないんですよ」


リュクスンがそう告げてくる。


さらに、皿を一つ差し出してきた。


「かくいう自分も、フロドさんへの贈り物を持ってきたので、どうぞいただいてください」


「ああ……」


リュクスンがかごに入った果物を渡してくる。


ありがたい。


けれど、明らかにキャパオーバー。


大量にもらった料理をどうしようかと思ったが……


(果物類や野菜類は、アイテムボックスに保管しておこうかな)


で……料理については、正直に食べきれないといって、返還しよう。


さすがに料理を持ち帰るのは、はしたないからなぁ。





俺は、手近てぢかにあった肉を食べ始める。


ホーンラビットの肉だ。


塩をまぶしただけの肉。


だけど、肉そのものに甘味あまみ旨味うまみがあるおかげで、単調ではない味わいになっている。


鶏肉とりにくのようにやわらかいし、脂身あぶらみも多く、肉汁がジューシーだ。


これはまあまあ美味しいかも?


少しすじっぽい部分が多くて食べにくいのが難点だな。


そして、お次はスープ。


ずずっ……と飲んでみると、おや?


美味しい。


さっぱりしているけど、ちょっと胡椒こしょうっぽい味わいがある。


あれ? でもおかしいな。


この世界は塩なら安いが、胡椒は高級品だ。


さすがに今回の宴には出されていないはずだけど……。


「うちの村の特産とくさんスープだ。気に入ったかい?」


村人の男性が話しかけてきた。


「ん……ああ、美味いな。あれ? あんたは……」


見覚えがあるな。


たしか村に来た初日に、俺が話しかけた人。


一番最初に、食料難について教えてくれた中年の男性だ。

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