第2章30話:耐性

ゼルリウスの額に穴があく。


青ずんだ血が流れる。


ゼルリウスの額に命中した弾丸。


……ったか?


そう思ったが、しかし。


「くく、」


とゼルリウスは笑った。


「くはははははは!! 良い威力だ! 俺の肉体を貫通するとは……! やはり、その武器は素晴らしいな」


「……!」


俺は警戒で目を細める。


魔族の弱点は、人間と変わらない。


心臓を潰すか、脳みそを潰す。


それで殺せるのだ。


そして、さっき俺が撃った弾丸は、たしかにゼルリウスの脳天のうてんつらぬいたはず。


なのに。


ゼルリウスは、けろっとしてやがる。


不死身……か?


「俺がなぜ死なないのか、驚いているようだな?」


「……」


「赤魔族には【全属性耐性】があるんだよ。人間には、あまり知られていないことだがな」


そうか。


思い出した。


赤魔族の特殊能力――――それは【全属性耐性】。


あらゆる攻撃のダメージを大幅に低減し、かつ、どんな攻撃を食らっても死なないというチートスキル。


だからゼルリウスに致命傷を浴びせても、死ぬことはないのだ。


「お前じゃ俺を殺せない。絶対的な格の違いというのを理解したか?」


「くっ……」


俺は歯噛はがみした。


ゼルリウスを殺せないことに……ではなく。


殺すためのアイテムがないことだ。


ゼルリウスは殺せる。


しかしそれには【減魔石げんませき】と呼ばれる魔石が必要となる。


減魔石を赤魔族にぶつけることで、赤魔族の【全属性耐性】は消え、不死身でなくなるのだ。


だが、俺は現在、減魔石を持ち合わせていない。


たしか素材だけならアイテムボックスにあったはずなので、錬金術で作れるはずだが……


いまここで素材を出して、のんびり作っている余裕はなさそうだ。


(それに2対1ってのもわるいな……)


ジェーンの攻撃をかわしつつ、減魔石を錬成し、それをゼルリウスにぶち当てる。


……無理じゃね?


かなりの難業なんぎょうであるように思えた。


せめてゼルリウスのいないところで、減魔石の錬成をおこないたいものだ。


目の前で減魔石を作ったりしたら、確実に警戒されるからだ。


どうする?


逃げるか?


そう思っていると、ゼルリウスが告げる


「お前は【家畜】にする」


さらにゼルリウスは告げた。


「その錬金術を、一生、俺が搾取する。……おい、ジェーン」


「わかってるわよ。りにすればいいんでしょ」


「ああ、そうだ。殺すなよ」


……ほう。


俺を殺さず、生け捕りにするつもりか。


なるほどな。


(だったら……)


わざと捕まって、あとで減魔石を錬成するチャンスをうかがうのはどうだろう?


危険かもしれないが、やってみる価値はありそうだ。



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