第2章28話:理由

ジェーンが森の中を歩く。


俺は一定の距離をあけて、ジェーンの後を尾行びこうする。


「……」


ジェーンはいったいどこへ向かおうとしているのか?


なんとなく想像がつく。


(次のランドウルフ・マザーを召喚するのに、適切な場所を探しているんだろう)


あと3とう、召喚するような口振くちぶりをしていた。


しかし、同じ場所でいっぺんに3匹も召喚することはしないだろう。


マザーしゅ縄張なわば意識いしきが強いことがある。


マザー同士を近くで召喚すると、争ったり、共食ともぐいをしたりする可能性があるのだ。


(だが、いったいジェーンは、なぜマザー種を召喚しているんだ?)


ジェーンの目的はなんだ?


……わからない。


そんなことをしてジェーンに得があるようには思えないのだが。


(ともかく、これ以上、ランドウルフ・マザーを召喚させるわけにはいかないよな)


と俺は思った。


だから声をかけることにした。


俺は早足はやあしになってジェーンに近づいた。


「おい」


ジェーンが立ち止まる。


俺も立ち止まった。


ジェーンは振り返り、目を細めてくる。


「あなた……どうしてここに?」


「ランドウルフの退治を依頼されてな。森に入ってたんだよ」


と俺は答える。


さらに俺は告げる。


「さっき……あんたが魔物を召喚していたところ、見てたぞ」


「……!」


「ランドウルフの大量発生たいりょうはっせい……あんたが原因だったのか」


「さあ、どうかしら」


とジェーンは肩をすくめた。


俺は尋ねた。


「何の目的であんなことをやってるんだ? ランドウルフ・マザーを召喚して、ランドウルフを増やして、何の意味がある? ユレット村のみんなが苦しむだけだろ?」


「あなたが知る必要のないことよ」


ジェーンの右腕みぎうでが静かに動く。


そっと腰の剣に手を伸ばす動作だ。


「どうしても知りたいなら、力づくで聞いてみれば」


次の瞬間。


ジェーンが剣を引き抜こうとした。


しかし、こちらに近づかれる前に、俺は。


拳銃でジェーンの顔面付近がんめんふきん発砲はっぽうした。


弾丸だんがんがジェーンのほおをかすめる。


「これで力の差はわかったか?」


俺は言った。


「痛い思いをしたくないなら、話せ――――マザーを召喚した理由はなんだ?」


ジェーンがいかめしい顔をする。


俺の拳銃を警戒しているようだ。


……と。


そのときだった。


「面白い武器を持ってやがるな」


「……!?」


横合よこあいから声がする。


慌てて俺は、そちらに拳銃を向けた。


そこに立っていたのは、赤色の体表をした魔族だった。


ジェーンが言った。


「ゼルリウス……今日はここにいたのね。散歩でもしてたの?」


「まあそんなところだ」


ゼルリウスと呼ばれた魔族が答える。

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