第2章20話:ジェーン視点

<ジェーン視点・続き>


ジェーンは村を出て、森に入った。


森の奥へと歩いていく。


歩く。


歩く。


歩く。


やがて、森の奥地おくちにたどりついた。


正面に20メートルほどのがけが立ちはだかっている。


左右さゆう森林しんりんに囲まれており、べたは雑草だ。


崖の前にひらべったい岩石が鎮座ちんざしており、そこに一人の魔族が座っていた。


男性の魔族である。


名前はゼルリウス。


2メートルほどの巨体きょたいを持ち、体色たいしょくは赤色。


赤魔族あかまぞくと呼ばれる種族。


戦衣せんいに身を包んでいるが、盛り上がった筋肉が、服の上からでもわかるほどである。


また、彼の肉体にくように濃密な魔力がただよっていた。


「ジェーン。戻ったのか」


とゼルリウスは言った。


野太のぶとい声である。


さらにゼルリウスは尋ねる。


「今日はお前がここに来る日ではないはずだが……何かあったのか?」


「ええ。面白い男を発見したのよ」


「面白い男?」


ゼルリウスが首をかしげる。


「フロドって名前の男なんだけどね――――」


とジェーンは前置まえおきしてから、フロドの特徴を伝える。


最近ユレット村にやってきた旅人であること。


錬金術師であること。


村人たちの前で、非常に効力の高いポーションを錬成してみせたこと。


……あらかた情報を聞いたゼルリウスは、興味深きょうみぶかげに微笑ほほえんだ。


「なるほどな……重傷を完治するポーションを作った錬金術師か」


「ええ。しかも一瞬で錬成していたわ。並みの錬金術師ではないわね」


とジェーンは告げる。


ゼルリウスは言った。


「お前はそのポーションが、上級ポーションだと推定しているのか?」


「そうよ。あれほどの効果は、中級ポーションでは有り得ないもの」


「ふむ。上級ポーションを錬成するためには、竜の血液などの、高ランクの素材が必要だ。それを持ってたというのか、その男は?」


「……まあ、竜の血液かどうかはわからないけれど、それらしい液体が入った小瓶こびんは持ってたわよ。あと上級魔石じょうきゅうませきを素材として使っていたのは見たわ」


「なるほど……だとしたら、他にもレア素材をいくつも持ってるかもしれねえな」


「そうね」


とジェーンはあいづちを打った。


ゼルリウスはにやりとあくどい笑みを浮かべる。


「そのフロドって男……なかなか良いじゃねえか。搾取さくしゅしがいがありそうだ」


ゼルリウスから悪意に満ちた感情がにじみでる。


その濃密な悪意に当てられて、近くにいた小鳥たちが一斉に飛びあがるほどだった。

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