第2章16話:村の案内

人だかりから解放されたあと。


俺はメリーユさんに村の案内をされていた。


「ユレット村は、近くの村と物々交換ぶつぶつこうかんをしながらいとなんでいるわ」


メリーユさんが歩きながら説明してくれる。


「たまに街にいって農作物のうさくもつを売ったりするけどね。まあ、森に囲まれたこの地で、山とか森林の恵みを得ながら細々ほそぼそと暮らしている感じね」


人口150人ぐらいの小規模な村。


それがユレット村だ。


村長はメリーユさんだが、彼女は、よそから移住してきたエルフの一族だという。


エルフの魔石ませきを使って、かつてユレット村で発生していた水害すいがいを食い止めたことから、村長に選任せんにんされたとか。


「この村の特産物とくさんぶつは、ユレットそうという、この周辺の森で採取できる野草――――それを煮込んだスープよ」


「ああ、もしや昨日の夕食で出た野菜スープがそれか?」


「いいえ。あれは作物を使ったスープね。ユレット草は、ここ最近ほとんどれてないから」


そこまで言われて、俺はその理由を察した。


「もしかしてランドウルフか?」


「……そうよ。ランドウルフの群れが出たせいで、森の恵みがほとんど得られなくなったわ」


メリーユさんが苦々にがにがしい思いをあらわにしていた。


と、そのとき。


「あら」


横から声をかけてくる者がいた。


「あなた、まだいたの?」


「あんたは……」


話しかけてきたのは、衛兵の女性だった。


相変わらず、俺に冷たい目を向けてくる。


メリーユさんが告げる。


「ジェーンさん。おつとめご苦労様くろうさまです」


「ふン」


と衛兵の女性は鼻を鳴らす。


どうやら彼女はジェーンという名前らしい。


ジェーンは言った。


「旅人のおじさん、さっさと帰れって昨日言ったわよね?」


「……ああ、言われたが」


「なんでまだいるの? はっきり言って迷惑よ」


もはや敵意ともいうべき視線を向けてくる。


メリーユさんが口を挟む。


「ちょ、ちょっとジェーンさん。フロドさんは、村に食料提供してくれた恩人なんですよ」


「ふン。だからどうしたのよ?」


とジェーンは高圧的こうあつてきに言い返す。


さらにジェーンは嘲笑ちょうしょうした。


「それにフロドって、ふふっ。えない名前ね」


「……」


俺は顔をしかめる。


なんでこんな態度をとられなければならないんだ?


失礼にも程がある。


俺は一言、言い返そうとしたが。


そのとき。


「大変だ! メリーユ!」


村人の男性が慌ただしく駆けてきた。


ただならぬ様子である。


メリーユさんは答える。


「どうしたの?」


「ネリーたちが帰ってきたんだ。だけどガンドが重傷を負って……!」


どうやら重傷の怪我人けがにんが出たらしい。


メリーユさんが弾かれたような顔をした。


「案内しなさい!」


「ああ、こっちだ!」


男の案内で俺たちは、怪我人のもとへ向かった。




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