第2章15話:宿泊と礼

俺はアイテムバッグに手を突っ込みながら、アイテムボックスのタレを取り出す。


「自家製のタレなんだ」


俺が錬金術で製作したタレである。


ルグイノシシにつけて食べると、美味しいのだ。


そのとき、メリーユが首をかしげて聞いてきた。


「タレ……とはなにかしら?」


「ああ、えっと……肉につけるソース? みたいな感じだな」


「へえ、そうなの。はじめて聞く言葉ね」


異世界では、タレはあまり一般的ではない。


まあ塩と砂糖だけでだいたい完結してしまう世界だからな。


俺は説明する。


「こうやって、タレをお皿に乗せてから、肉をけて食べるんだ。ぜひ使ってみてくれ」


実践してから、俺はメリーユにタレの入った瓶を差し出してみた。


「ありがとう。いただいてみるわ」


メリーユは瓶を受け取る。


俺と同じように、皿にタレを乗せた。


それにルグイノシシの肉をつけて、タレがついたのを確認したら、口に運んだ。


「……え!?」


メリーユが目を見開く。


「な、なにこれ……」


まるで雷に打たれたような顔で、ぷるぷると震えていた。


「これは……美味しいなんてものじゃないわ! こんなソースはじめて食べたわよ。いったいなんなの、このソース!」


「気に入ってもらえたみたいで。良かった」


「あ、あなたが作ったのよね!?」


「ああ。一応、自家製だからな」


と俺は答える。


「これは本当にすごいわ。このソースだけで一財産ひとざいさんを築けるんじゃない?」


「いや、売るつもりはないけどな……」


俺は肩をすくめる。


さて、俺もルグイノシシの肉をタレにつけて食べてみる。


うん、うまい。


塩で食べるのも悪くないけど、やっぱりこの肉にはタレが一番合うな。


俺は舌鼓したづつみを打ちながら、メリーユとともに食事を続けた。









食事の後。


お風呂に入りたいと思ったが、どうやらここに風呂はないようで……。


水浴みずあびだけをすることになった。


それが済んだあと、案内された個室に入る。


「じゃあ、今日はここで休んでね」


メリーユがそう言って去っていった。


俺はふと窓辺まどべに近づく。


夜のしずけさに沈んだユレット村が、窓の外に眺めることができる。


しばし、月明つきあかりに照らされた村の景色を眺めてから。


俺はゆっくりとベッドに寝転んだ。


疲れていたので、すぐに睡魔すいまが訪れた。








翌日の朝。


ベッドから起き上がる。


窓から陽光ようこうしていた。


小鳥のさえずりが聞こえてくる。


涼しげで、清新せいしんな空気。


「良い朝だ」


と俺はつぶやく。


ぐっすり眠れた。


意識がばっちりだ。眠気ねむけもない。


俺は起き上がって、部屋を出てから、リビングを訪れる。


「ん……?」


誰もいない。


メリーユは、もう外に出ているようだ。


まあ、農村のうそんの朝は早いからな。


俺も外に出てみるか。


そう決めて、村長宅そんちょうたくを出る。


表にいくと、近くにいた村人たちと視線が合った。


すぐに取り囲まれてしまう。


な、なんだなんだ?


急にどうした?


村人たちが言ってくる。


「あんたが肉を売ってくれた、フロドさんだよな?」


「格安で提供してくれたって聞いたわよ」


なるほど、肉の件か。


「あら、フロドさんじゃない? 起きたのね」


メリーユがやってきた。


メリーユが微笑んで、声を上げる。


「みんな、紹介するわ。この人が、魔物の肉を安く売ってくださったフロドさんよ」


さらにメリーユが告げた。


「フロドさんのおかげで、村の食料難しょくりょうなんはおおむね解決しました。しばらくは食事に困ることはないでしょう」


村人たちは歓声をあげた。


口々くちぐちに言ってくる。


「ありがとう。おかげで昨日は、久しぶりにお肉を食べられたわ!」


「あんなにたくさんの肉を運んでこられるなんてすごいな」


「あんたは村の恩人だよ」


「他の村人にもお礼を言わせないとね!」


俺の存在に気づいた村人たちがどんどん増え、人だかりをなしていく。


……結局。


そのあとしばらく、人だかりに囲まれて、ひたすらお礼を言われ続けるのだった。




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