第2章14話:村長宅での夕食

「さあ、今夜は存分に召し上がってちょうだい。野菜スープ、小麦パン、果物、それからルグイノシシの肉よ」


「……ルグイノシシ」


「ええ。あなたが売ってくれたものを、さっそく使わせてもらったわ」


と、メリーユさんが答える。


しかし、それにしても。


庶民料理しょみんりょうりとしては、かなり奮発ふんぱつしている。


たとえば小麦こむぎパン。


小麦で作ったパンは、日本だったら当たり前に食べられる。


しかし、異世界では一般的に食べられるものではない。


高級食品だ。


庶民のあいだでは、ライむぎパンが食べられており……


小麦パンを食すことができるのは、裕福な貴族や商人のみなのだ。


「ああ、そうそう。アレを出すのを忘れていたわ。ねえフロドさん、お酒は飲めるかしら?」


「いや、大丈夫だ」


「そう。じゃあ持ってくるわね。ちょっと待ってて」


メリーユさんが奥の部屋に行った。


ややあって、戻ってくる。


びんに入れた緑色のお酒を持ってきた。


それをグラスに注ぐ。


植物酒しょくぶつしゅよ」


とメリーユさんが告げた。


「植物酒……」


「植物から取れたエキスを、お酒に混ぜてあるの」


「へえ」


俺はあいづちを打つ。


「……そろそろ食べましょうか。豊穣ほうじょうの神よ、たえなる恵みに感謝いたします」


メリーユさんが両手を組み合わせて祈りを捧げる。


異世界なら、神に祈りを捧げるのは当然だ。


「いただきます」


俺は手を合わせ、日本式の挨拶で。


さっそく、植物酒とやらを飲んでみる。


「おお……」


飲みやすくフルーティで、植物というよりは果実のよう。


ちょっと苦味にがみがあるのも、良い感じのアクセントになっている。


これはうまいぞ。


「お気に召していただけたかしら?」


「ああ。とても飲みやすい」


ついつい飲んでしまいそうだ。


「それにしても、」


メリーユさんが言ってくる。


「あれだけの魔物を狩ってこられるなんて、フロドさんはとても優秀な冒険者なのね」


「そうでもないさ」


俺が肉を食べようとする。


「……ああ、よかったら、この塩をお好みで使ってね」


メリーユさんが慌てて言ってきた。


メリーユさんが小さなツボから木のスプーンで塩をすくう。


それを皿に移して、差し出してくる。


「ありがとう……ああ、そうだ」


と、俺は思った。


自前じまえの調味料があるんだが、よかったら試してみるか?」


前世の調味料を、錬金術で作ってある。


アイテムボックスに入っているので、いつでも使用可能だ。


「自前の? それは興味深きょうみぶかいわね。ぜひいただきたいわ」


と、メリーユさんが関心を示した。

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