第2章12話:村長

とりあえず、村長の家の場所を聞くことにする。


さっきのオッサンはもう立ち去っていたので、すぐ近くを通りかかった女性に声をかけた。


「あの」


「……!」


女性はこちらを振り向く。


村人っぽくない服装だ。


街の衛兵みたいな格好。


近くの街から、この村に駐在ちゅうざいしているのかもしれない。


俺は尋ねた。


「村長の家の場所を尋ねたいのだが」


「あなた、誰?」


と衛兵の女性が、聞いてくる。


俺は答えた。


「自分は旅人だ」


「旅人? いつまでこの村にいるの?」


「え? えっと……決めてはないが、数日はいるかもな」


「数日……できれば、さっさと帰ってくれると嬉しいんだけど」


「え……」


冷たい対応をされて、俺はぽかんとする。


衛兵の女性は言うだけ言って、スタスタと歩き去っていった。


(なんか……イヤな感じの女だったな)


と俺は思う。


俺みたいな余所者よそものを嫌ってるのか?


いや、もっと根本的に悪意のようなものを含んだ雰囲気だった。


気のせいかもしれないが……。


(まあいいか)


とにかく、気を取りなおす。


俺は他の村人に声をかけた。


次に話しかけた村人も女性だったが、こちらは、衛兵の女性と違って、丁寧に答えてくれた。


おかげで村長の家の場所が判明した。


俺は村長の家の前まで訪れる。


「すみませーん!」


玄関前げんかんまえで呼びかけた。


ややあって、玄関の扉が開く。


赤髪ロングヘアの女性があらわれた。


黄色の瞳をしている。


服装は……


ブラウス、


コルセット状の茶色の腰巻こしまき


緑のロングスカート、


革の靴、


……である。


彼女は、尋ねてきた。


「誰?」


俺は答える。


「ここが村長さんの家だとうかがったんだが……」


「いかにも。私がそうだけど?」


どうやら女村長おんなそんちょうのようだ。


一見するとただの村娘むらむすめにも見える女性である。


「実は、この村で食糧難が発生していると聞いたんだけどな」


「ええ。まあ、そうね」


と、女村長は肯定した。


俺は告げる。


「食糧が余っているから、提供しようと思って、こちらに参った次第だ」


食糧提供しょくりょうていきょう? それは本当に助かるわ」


女村長が姿勢をただす。


重要な取引とりひきをするような顔になった。


「ちなみにどれぐらいの量になるのかしら?」


「ええと……アマイドリやルグイノシシを、合計200匹程度なら出せるな」


「……え?」


女村長はぽかんとした。


「ごめんなさい。間違まちがえかもしれないんだけど……いま、何匹って?」


「200匹だ」


「……200匹? 冗談よね?」


「本当だぞ」


俺は答える。


女村長は目を見開いて告げた。


「とても信じられないわ」


うーん、まあ個人で所有するには多すぎるのか?


倒した魔物の数だけなら、もう300匹ぐらいは越えてると思うけどな。


「とりあえず証拠として、20匹ほどここに出すぞ」


俺は信じてもらうために、アイテムボックスからルグイノシシを20体、村長宅そんちょうたくの前に取り出した。


女村長は呆然ぼうぜんとして言った。


「ちょ、ちょっと!? あなたどんな容量のアイテムバッグを持ってるのよ!? え、じゃあほんとに200匹も持ってるの!?」


なるほど。


200匹も所有できるアイテムバッグなんて存在しないと思っていたのか。


だから信じられなかったと……。


まあ、俺の場合、アイテムバッグじゃなくてアイテムボックス。


容量無限ようりょうむげんのチート特典だからなぁ。


規格外きかくがいだというのはわかるよ。


俺は言う。


「ほんとに持ってる。さすがに一気に200匹も出すのはアレだから、小分こわけにして少しずつ提供しようと思うが……」


女村長はあんぐりと口をあけていた。


しかし、やがて、俺のもうが冗談でもなんでもないと理解したのか。


ひとつ息をついて。


「すぐに受け取りの準備をさせてもらうわ」


と、言った。

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