第3話


「ああ、七海ちゃん。もう来てたんだ。ごめんね待たせちゃって」


 私たちの“初めて”の出会いから、数日。

中庭のベンチでスマホを見ていた私の横に、章一くんがそっと座った。

 出会った日こそ章一くんは緊張と警戒心でよそよそしかったけれど、案外すぐに打ち解けてくれた。やっぱり、気を紛らわせるために誰か話す人が欲しかったのだと思う。

 同い年だから、わかる。


「全然だよ。診察どうだった?」

「別に変らないよ。『不安だとは思いますが、今はゆっくり休む機会だと捉えて』、とかなんとか。……そんなことより、なにその大量の写真。全部七海ちゃんが撮ったの?」


 章一くんはあからさまに話題を逸らして、私のスマホをのぞきこんできた。彼が高校生の頃はスマホがまだ普及し始めたばかりだったらしくて、いつも興味津々で色々なことを訊いてくる。

 私も彼に肩を寄せた。


「まさか、SNSに投稿された写真見てるの。大学入る前に美容室行きたいんだけど、髪型迷ってて」

「へぇ、便利なのな。でも、わざわざ自分の写真投稿してる人がこんなにいるのか」

「今はそれが普通だよ。趣味の合う人とも繋がれるし」

「は? 知らない人とネットで友達になるってこと? 怖っ、絶対危ないって。やめた方が良いよ」


 慌てて真っ青になった章一くんに、私はぷっと吹き出した。


「え、俺何かおかしいこと言った?」

「だって今時そんなこと言う人珍しいから」

「それは……まあ、12年前の常識ってことで」

「ふふ、心配してくれてありがと」


 私は上目遣いで、章一くんに微笑んだ。 

 こうやって視線を合わせると、彼はいつも少し赤くなって顔を逸らす。

 私を“女の子”として意識してくれてるんだなって思うと、嬉しくて仕方ない。


「別に……で、髪型はどうすんの?」


 章一くんはそっぽを向いたまま、スマホの画面を指さした。私の視線を逸らしたいんだろう。

 そんな可愛いことをされると、余計にからかいたくなってしまう。


「せっかくだから軽くイメチェンしようかなって。髪色変えて肩くらいの長さでふわっとさせようと思ってるんだけど、章一くんはこの中だとどれが好き?」

「俺? なんで俺に訊くの、自分の好きなのにしなよ」

「ダメでーす、選んでください」

「えぇ……じゃあこれとかいいんじゃない」

「ほう、意外にもちょっと大人っぽい子が好みですか」

「お前なぁ!」


 ニマニマと距離を詰める私を、照れながら遠ざけようとする章一くん。

 かわいい。楽しい。すごく幸せ。

 大人の章一くんとは絶対できなかったやりとりに、私は浮かれていた。


 このまま、章一くんが私のことを好きになってくれればいい。

 

 ――ううん、違う。

 絶対に、好きになってもらうんだ。


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