第2話 始まりの夏

~和希side~


「あれ? つきづらい…」


 リモコンの電池が切れたのは何年前だろう? もしかしたら俺が生まれてすぐかもしれない。


 電池が切れてからは俺が電池に無理矢理帯電させてテレビをつけてるんだけど…。

ちゃんと魔法は出ているはずなのに、っていうかちゃんと電流が見えたのに、つかない。


 よくよ~く見ると…。


「あっ」


 俺が帯電させると同時に、ものす~~~ごっく細い、コンマミリ単位の電流が、外に向かって直線で流れている。


「意識したものにしか帯電はしないはずなのにな…」


 とりあえず、その電流を追おうとした。

 でも、俺が立ち上がったと同時に、電流の方向は時計回りにズレていく。


「逃げてる…?」


 そう考えた俺は、急いで家を出た。

 周りには人はいないけど…。


「公園の方…」


 に、電流が走っている。

 もう逃げられないように、靴に帯電させて、動力に変えて秒速300mくらいで走った。

 すると、1秒もしないうちに電流の先にあるものが見えた。


「…ハ?」


 そこにいるのは…クラスメートで部活仲間の、森野だった。


「キャァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


 と森野が奇声を上げる。


「うっっるさ!!」


 普段、森野は教室でそんなに活発なタイプじゃないし、演劇部の発声練習でもここまでの大きな声は出さない。

 学校では、魔類マジカル真類オリジナルでクラスが分かれている。

 クラスメートってことは、冷静に考えれば森野は魔類マジカルだ。

 なんの魔法を持っているんだ?

 でも、森野は足は特別速いわけではない。でも、さっきみたいに魔法を使わないと追いつけないくらいの速さだった。物体の移動を速くする、みたいな魔法か?

 いや、じゃあ今の奇声の大きさは? 音を大きくする魔法みたいなやつか?

 でも、そしたら足の速さについてが辻褄が合わなくなる。

 っていうか、まず、なんで俺の魔法の電流が森野に流れていたんだ?

 今もなお公園の入り口で奇声を上げている森野に向かって、


「も、森野、落ち着け。一回、落ち着こう」


 両肩を押さえながら言うと、


「あっ、間違えて魔法を放出しちゃった……あと、ごめん、白石君」


 森野は申し訳なさそうに頭に手を乗せ、言葉を続けた。


「いや、それは話聞けばわかることだから。とりあえず、ベンチ座ろう」


 今日は、少し長話になりそうだ。




~琉菜side~


「要は…悪人たちを倒すために、俺から少しずつ電流を吸収していた。そういうことか?」

「うん」


 本当に、申し訳なさでいっぱいだ。

 全てバレてしまった今、全てを包み隠さず白石君に話すほかない。

 バッドやエンドのこと、『吸出ソック・プットアウト』はどのような魔法なのか、私が何をしようとしているのか、バディを組まなきゃいけないということを、全部話した。

 白石君は夕日の方向を見つめて、顎に手を当てて真剣に考えてくれている。


「よし。俺が相棒になってやるよ」

「はぁっ⁉」


 思わず、男みたいな驚き方をしてしまった。

 そんな話ってスイスイ行くものっ?

 今まで相棒が見つからなかったのが嘘みたい…。


「な、なんで?」

「え? …ん-、人生に刺激がなかったから?」


 聞くと、白石君は、友達も、高校も、全てが冴えなくて、自称・刺激がない人生だったという。私と同じだ。


 っていうか、さらっと高校1年生の夏になってるけど、中学3年生の時も、今も、白石君はクラスメート。白石君とバディを組め、っていう合図だったのかもしれない。


「そっか…じゃあ、今日から、よろしくお願いします」

「おう、よろしくな」


 白石君がたくましい手を差し出してきたから、そっと私が握り返すと、

 ビリリリッ


「きゃっ!」


 私の身体に電流が走った!

 目の前で、白石君はいしし、と小学生の男子みたいに、いたずらっ子みたいに笑っている。


「ちょっと! ビックリするじゃん!」


 私にはそこそこの瞬発力があるはずなのに、今の魔法は吸収できなかった。


 でも、白石君の、普段見られないやんちゃな顔が見られたから、いっか、と許してしまった。

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