序章 おい森野、勝手に利用すなよ?

第1話 ごめん、白石君

~琉菜side~


 本当に、よくないことだってことは重々承知してる。

 本当なら、私だってこんな事したくなかった。

 本当は、白石君を傷つけたくなかった。

 本当に、ごめん、白石君。


 私はある事情があり、親から『周りの人から魔法を吸収しなさい』と言われて、クラスメートの白石君を、学校からつけてきた。


 今まで、他の人の魔法の吸収なんて、必要以上にやってこなかった。

だからこそ、不要不急の『吸出ソック・プットアウト』は使いたくなかったのに。


 白石君が家に入ったのを見計らって、家の周りをぐるぐる周る。

 魔法の気配がしたら、ほんの少しだけその魔法を吸収する。

 こんな地味な方法でしか吸収はできない。


 これを、毎日欠かさずにやり続けた結果、私はこの世界で一番の悪人と敵対したときの為に放出する十分な電気を吸収することができた。


 …それは、ミスター・バッド。

 バッドは、誰もが知っている最低な悪人、それに一番強い魔類マジカルである。


 バッドと、その妻のミス・エンドがバディを組んでいて、エンドもバッドに加勢している。バッドとエンドなんて不幸すぎる名前ばっかでどうかと思うけど。

 とりあえず、この二人が出てきて以来、魔術世界大会で他に優勝したバディはいない。


 人間界ではいつもニコニコしていて、そんなに悪人なんかに見えないけど、みんなが寝た深夜3時くらいに、少しずつ、魔類マジカルの気力を無くして、世界を征服しようと動いている。


 それを知ったのは、何年前だったっけ。

 うちのお父さんとお母さんがどっちも魔類マジカルで、バディを組んでいて、その二人がとても強くて、いつも大会でメダルを取っているような人だった。


 でも、バドエンペアが出てきてから、一回も表彰台に上がったことがない。

 何年か経って、なんであんなに強いのか、ということを両親が調べた時に、周りの気力をエンドが吸収して、その気力を何倍にもしてバッドに送り、その魔法を出して周りを倒す、という戦法をしていることが分かった。


 うちにはお兄ちゃんが2人、お姉ちゃんが1人、弟と妹が双子で一人ずついるから、その合計6人の子供全員に聞かされた。

 二人との戦闘がトラウマで、二人は強い魔法が出せなくなってしまった。だから、自分が行って命を無駄にするより、健康な体の魔類マジカルにこの事実を語り継いでいって、いつか二人を倒すのを目標にしたらしい。


 他のきょうだいたちは自発的にできる魔法を持ってるけど、私だけは誰かの魔法を借りないと攻撃ができない。

 お兄ちゃんたちは早速、魔法の業界で修行(?)をしてるらしい。

 私はまだそんなのには届かない。


 みんなバディもできてるのに、私は相手もいないし。

 だから、何もできないまま15年が経った。

 高校は、制服も冴えなくて、偏差値も普通で、結構多くの人が受験する高校にした。さすがに私でも受かったけど。


 でも、このまま大人になって、バディを作れないまま、両親の役に立てないまま、死んでいくのは絶対に嫌だ。

 その一心で、ずっと頑張ってた。


 「はぁ…」


 でも、そのが、人から魔法を盗むことだなんて。

 早いこと、相棒を見つけないと!!


 事態が大きく動いたのは、魔法を吸収し始めてから半年が経った、高校1年生の夏だった。

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