第4話 騎士様のご都合

「本当にありがとうございました」

騎士様を前に、王国語を話す座長はちょっと別人みたいや。


「この先はどうされるのかな」

騎士様のお声が懐かしい。ぼんやりとしか覚えとらんかったけど、同じ声や。

「巡業の旅を続けます。毎年、幾つかの村や町を回ってから王都に行きます。待ってくれている人達がいますから」

座長が微笑む。そう。座長の言う通り、うちら旅芸人は、旅回りをして芸を見せながら生きている。同じ町に同じ時に、似たような芸を披露する一座が居合わせることがないように、長年の習慣で調節もされとる。逆に、大きな町やったら、祭りの時期に、芸風が違う一座が複数天幕を建てて、芸を競い合ったりもする。


 お互い競い合うけど、喧嘩はせえへん。それがうちら旅芸人の考え方や。違う考え方の人らもおる。それは仕方ない。みんな一緒は無理や。喧嘩っ早い連中は、仲間内で喧嘩して一座が無くなるから、付き合わんでえぇというのが座長の口癖や。


「護衛はこれだけ、というより彼一人か」

「はい。多くの傭兵を雇うことは難しいものですから。人数は増やせません」

座長の言葉どおりやねんけど、クレト爺ちゃん一人ってのも極端な話や。

「道中危険もあるだろう。どうだ」

騎士様が座長の耳に囁いた。


 驚いてのけぞった座長に、騎士様がいたずらっぽく笑う。

「どうだ。今回は、お前たちが襲われたところに、偶然我々が居合わせて盗賊共を討伐できた。我々は、辺境伯の土地を貫く街道に盗賊が出るようでは困るから、討伐をしたい。どうだ。悪い話ではないと思うが」

「いえ、しかし」

「我々は王都に行く途中に盗賊討伐をする。お前たちを囮に雇いたい。報酬として、お前たちの警護をしてやろう。どうだ。悪い話ではあるまい」


 うちは驚いた。あの騎士様は辺境伯様に関係ある人やったんや。

「私は盗賊討伐が出来る、お前たちは護衛が手に入る。悪い話ではないだろう」

押しの強い騎士様に座長の腰が引けていた。頑張れ座長、あ、でも座長が頑張らないほうが、騎士様と一緒に旅ができるし、安全やし、良いこと尽く目や。座長は頑張らないほうがえぇわ。かと言って、座長に頑張らんといてなんて、応援できへんし、どないしよう。


「実はな、私たちは王都には行かねばならんが、あまり早く着きたくないのだよ。私たちを助けると思って、付き合ってくれないか」

騎士様の言葉に、うちは騎士様の勝利を確信した。座長は弱いねん。そういうお願い。だからいろいろ、厄介事に、まぁええわ。一座のみんなは、座長のそういうところも好きやから、一緒にいるんやもんね。

「しかし、その」

「私たちを助けると思って、な。頼む。悪い話ではないだろう」

座長が逡巡しとるけど、座長は座長やからねぇ。

「かしこまりました」

ほら、やっぱり騎士様の勝ちや。


「しかし、私共に同行していただいて本当によいのでしょうか。私共は巡業の身。時として町や村にとどまることもございます」

かしこまったはずの座長が、あれこれと遠慮するのもわかる。だって騎士様やで。王都に用事あるはずや。いろいろと。巡業はゆっくりや。王都にも行くけど、途中にある町や村にも行くし。


「できるだけゆっくり各地を巡業して欲しい。町や村の様子を知ることにもなる。下手に急ぐではない。例年と異なっていては、盗賊共に感づかれるやもしれぬ。例年通りゆっくりとだ。わかったな」

「はい」

流石は騎士様のお言葉や。ご命令一つとっても、威厳がある。うちを助けてくれた御方は、こんなに威厳のあるお人やったんや。

「いいか。私たちはできるだけ、遅く王都に着きたい。そこをよく考えて巡業するように」

少し声を潜めた騎士様が、いたずらっぽく笑った。あれ? そんなんでえぇんかな。のんびり旅する騎士様なんて聞いたことないで。

「かしこまりました」

座長が深く一礼した。

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