第3話 うちと騎士様
うちは孤児院で育ってん。小さい頃のことはあまり覚えてないわ。ひもじくて寒かったな。それくらいや。
あるとき突然、荷馬車に詰め込まれた。後から思い出したら、全員女の子で、まぁ、そういうことや。孤児院はうちらを人買いに売ってん。行き先? 決まっとるやん。どうせ娼館や。たどり着かんかったから知らんけど。
あの頃は、うちも周りの子も、なにも知らんかったし。ただ、食事だけは、ちゃんとくれて、お腹いっぱい食べられて、ちょっと嬉しくて、みんなニコニコしてたわ。そうこうしとったら突然、馬車が止められて、大騒ぎになって、ようわからんままに、荷馬車から降ろされてん。
大人が全員、縛り上げられててびっくりしたわ。周り中、騎士様ばっかりで、それも大きな人達やから、怖くて、みんなで抱き合って震えとったら、騎士様が一人、膝をついてうちらの高さに合わせてくれはってな。
「もう大丈夫だよ」
と言うてくれはってん。王国語や。皇国語とはちょっとちゃうけど、子供でも意味くらいはわかる。何が大丈夫なのかとか、わからんことばっかりやけど、なんとなく安心して、うち泣いてしもてん。今思い出しても、ちょっと恥ずかしいわ。一番最初に泣いたのはうちやからね。うちにつられて他の子も泣いたけど。
騎士様は優しい人で、いろいろ教えてくれはった。その時に、うちは騎士様に大事なことを教わった。娼館に売られていくのに、わかってないうちらを心配したんやろね。
女の子は体を自分を大切にしなさい。君たちを本当に大切にしてくれる人と結婚しなさい。結婚してから相手に
うちも本当の意味がわかったのは、数年してからや。意味がわかった時、うちは、うちを助けてくれはったあの騎士様に
そのまま近くの孤児院に預けられてんけど、うちの髪のこと考えてくれはったんやろうね。うちの髪は、皇国に多い黒や。皇国の直毛でもなく、王国の巻き毛でもなく、緩やかに波打っているから、皇国と王国の両方の血なんやろうけど、親のことはわからん。
王国の人の中に、黒髪を嫌う人がいる。王国は皇国に戦争で何回も負けとるから仕方ないんやろうけど。しょうもない意地悪しても戦争に勝てへんのにな。
うちは、皇国の血を引く人が多く住む町の孤児院にあずけてもらった。お陰で、優しい人達に囲まれて成長できた。王国の孤児院で育ったけど、皇国語なのはそのせいや。まぁ、どっちもしゃべれるけど、皇国語のほうが慣れとる。
旅をしたら、いつか騎士様にお会いできると思って旅芸人の一座に入った。下働きから始まって、端役をやらせてもらえるようになって、いつか舞台で主役を演じるために頑張ってるねん。立派になったうちを、騎士様に見てほしかった。目標半ばでの再会やけど、うちは二度、同じ騎士様に助けていただいたんや。うちは座長とクレト爺ちゃんと話をしている騎士様を時々見ながら片付けをして、怪我の手当を手伝った。
うちのことを覚えてくれてはるやろか。ずっと会いたかったお人やけど、会ったら会ったで、何と言って良いかわからへんもんや。騎士様にまた会えたんが嬉しい。けど、どうしたらえぇかわからへん。芝居の台本になんか、えぇ台詞あったやろか。うちは片付けをしながら、色々な台本を思い出しとった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます