第2話 盗賊の襲撃
荷馬車の中まで、剣と剣、人と人がぶつかり合う激しい音が聞こえる。いつも通りの巡業の途中、一座は突然盗賊に襲われた。金のない旅芸人なんて襲って、何になるねんと思うけど、そういう事を考える頭があったら、盗賊なんて頭悪い事せえへんから、言うてもしゃあない。捕まったら、頭と胴体がお別れする盗賊稼業の何がえぇんか、うちにはわからん。頭悪い人達のせいで、なんでうちらがこんな怖い思いせんとならんのかと思うと、腹も立ってくる。
女子供は隠れとけと言われて、うちらは荷馬車の中に居る。仕方ない。うちらは足手まといや。荷物の影に隠れて、外の音に耳を澄ませ、大地母神様にどうか守ってくださいと一生懸命お祈りするくらいしか、足手まといに出来ることはない。
旅芸人やけど、一座は無力やない。外の皆を信じるだけや。クレト爺ちゃんは無事やろうか。クレト爺ちゃんは、女の子も知っといて損はないと、うちに剣術を教えてくれた元騎士や。大怪我をして、騎士を引退しはったけど、隠居は阿呆くさいって、一座と一緒に旅をして、用心棒をしてくれてる爺ちゃんや。娘さんが、やんちゃな父ですみませんと言うてくれはったけど、えぇ爺ちゃんやで。うちは大好きや。最近は役者もするねん。お婆ちゃん達に大人気や。クレト爺ちゃん無事やろうか。お婆ちゃん達を泣かせたらあかんで。
一座の男連中は皆、クレト爺ちゃんに、剣術を教わってる。旅の安全に必要やし、芝居の殺陣(たて)にも必要や。座長もそれなりに強いらしいけど、全員本物やない。盗みや殺しで生きてる盗賊とはちゃう。誰も人なんか、殺したこと無い。クレト爺ちゃんは本物の騎士やったから、経験あるやろうけど。爺ちゃん一人で、盗賊全部を退治するなんて無理や。
「コンスタンサ。みんな大丈夫やろうか」
仲間の声にうちは振り返った。
「わからへん。けど、大丈夫や。クレト爺ちゃんと、クレト爺ちゃんの弟子やで。何かのときには、うちが守ったる」
一座の女連中の中で、クレト爺ちゃんに剣術を教わったのは、お転婆なうちだけや。
「そしたら二つ名は、女騎士コンスタンサやね」
泣きのトニアの軽口に、緊迫していた荷馬車の雰囲気が少し和らぐ。
「その時は、うちが主役で座長に台本書いてもらうわ」
うちの軽口のあと、突然荷馬車の幕が開いた。
うちは短剣を抜いた。荷馬車の中に一瞬で緊張が走る。
「無事やったか!」
座長の声に、腰が抜けたうちは、その場にへたり込んだ。良かった。座長は無事やった。
「当たり前や。こっちには、女騎士コンスタンサがおるわ」
泣きのトニアという二つ名にふさわしくない軽口に、荷馬車の中からも外からも笑い声が沸き起こった。
「クレト爺ちゃんは? 」
うちの声に座長が笑った。
「安心せぇ。全員無事や。助けが来てくれはったんや」
座長の言うとおりやった。荷馬車の外には、騎士の一団がおった。本物や。全員本物の鎧を着て、盾や槍や剣を持って馬に跨って、格好いい。クレト爺ちゃんも、若い頃は、あんな風に格好よかったんやろうか。
あっちこっちに盗賊やったらしい何かが倒れとるけど、うちは見て見ぬふりをした。死んだ人の魂は、大地母神様の御許に還る。すべての生きる人は、正しいことも間違いもする。生まれ変わる中で、善行を積み重ねた魂は、いつか大地母神様と一体になる。あの人らも次は、盗賊やない人生を生きることが出来ますように。うちは大地母神様にお祈りをした。
うちらを助けてくれた騎士の中に、ひときわ目立つ兜飾りをつけた人が居た。多分、一番偉い人や。クレト爺ちゃんと座長と話をしてはる。兜をとったその人を見て、うちは驚いた。あの人や。あの日、うちを助けてくれはったあの騎士様や。ちょっと違うけど、間違いない。
うちは、孤児院におって、何も知らんかった小さい頃に、人買いに売られた。騎士様が助けてくれはったから、うちはここにおる。あの時の騎士様や。うちは、命の恩人に、私の騎士様に、二回も助けてもらったんや。うちの目に涙が浮かんできた。
「あら、コンスタンサ。皆無事やってんから、泣いてる場合やないよ」
そんなん言われたら、泣いてしまうやん。
「あらあら」
抱きしめてくれたトニアの胸で、うちはトニアと一緒に泣いた。
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