7章 運命
真っ白な空間が広がる。
どこまでが空間でどこまでが壁なのか。
それすら認識する事が難しい、そんな白い空間。
不思議と眩しさは感じなかった。むしろ居心地が良いとまでフラフィは感じていた。ここでは何が待ってるんだろう。そんな気持ちよりもなんだか懐かしいと感じた。
空間の中で見えたのは大きな長いテーブルと銀食器で彩られた青いクロスとその中央にはたくさんの食べ物が置かれており、フルーツや美味しそうなメインディッシュ達が丁寧に並べられている。
「やあ、君がフラフィだね」
長いテーブルの奥で背の高い椅子に腰掛けていた白いスーツの「人間」がそこにいた。
フラフィが人間だと思ったのには訳がある。
男の人?女の人?そのどちらかわからなかったからである。中性的で声も男の子と言われればそう聞こえるし、女の子だと言われても納得する。年齢も若いと言われればそう見えるし、年相応と言われればそう見える。確かなのは白いスーツの「人間」と言うこと。
そしてその人間はフラフィを知っていて、待っていた様子である事。
「君は誰?」
「私はアイン。君を待ってたよ。今夜はパーティだよ」
アインと名乗ったこの人間はフラフィにこちらへどうぞという様子で手招きをしてみせた。
フラフィはその様子にキョトンとしながら、ふとライを見た。
ライは相変わらずニヤニヤとしている。
フラフィが席につこうと歩き出した時突然、ピンと張り詰めた空気が流れる。その瞬間ライが小さな声で呟いた。
「ロストマンに気を付けろ」
「え?」
フラフィが振り返るとそこにライの姿はなかった。
いつもどこかでニヤニヤとしていたライの姿は一瞬のうちに消えてしまった。
ライは不思議で不気味な存在だった。
けれど、こんなふうに辻褄の合わないことはなかった。
「どうしたの?」
「あれ?ライ?どこへ行ったの?」
「ライって?」
「黒猫だよ。さっきまでここにニヤニヤした黒猫がいたでしょ?ここに来るまでずっと一緒だったんだ」
「ふーん。そうなんだ。もしかして、フラフィの友達かな?」
「うーん。そうとも言えるかも。僕はライのこと、嫌いではなかったし、ライは」
「その話は長いのかな?まあ席に座りなよ。それよりも君はこのパーティーになぜ来たのかな?」
「いや、実のところ僕はパーティーに呼ばれて来たわけじゃなくてただ色々あって一休みしたかっただけなんだ。このパーティーのこともよく知らなくて」
「へぇそうなんだね。君がどう考え、どう思ってここに来たのかは正直な所、どうでもいいんだ。君はここにいて、私もここにいる。それになんの意味もない。もちろんこのパーティーにもね」
「え?どういう事?何かのパーティーじゃないの?」
「そのはずなんだけど、私はパーティーそのものに意味を持たせてないんだ。問題なのは中身だから」
「中身?」
「そう中身。前置きはこれくらいにして本題を話そうと思う。ここにある食事はどれも絶品。遠慮なく食事を楽しみながら私と対話しようよ」
アインはそう言うと、席につきカップに入った紅茶を飲みながら薄っすらと笑ってみせた。
フラフィはその様子を怪しく思ったが特にする事もない為、とりあえず席についた。
「いいけど、アイン。君と一体何を話せばいいの?」
「何を話せばいいか、それはフラフィ、君が何を知りたいかって事に
「え、なぜそれを知ってるの?」
「そうだよね。そうだよね。そうだとも。君はそう思ってきたはずだよね。その答えを私が知ってるとしたら、聞きたくない?」
「どういうこと?」
フラフィは少し不安になってきていた。
意気揚々と話すこの人間に何を言われるのか。その答えを聞くのがどこか恐ろしい気がしていた。
「そう。つまり、早い話がフラフィ、君が悪魔なのに悪い事が出来ず、良いことを考えてしまう。より方向へと進むようにしてしまう。その訳。それは君が潜在的に出来損ないの悪魔だからと君はどこか感じてただろう?」
「う、うん」
「みんなそうなんだ。みーんなそう。この小説を読んでる皆さんもどこかで思っているはず。なぜ自分はこうなのだろうか。ってこと自分がどういうものなのかってこと。みんな少なからず感じて、みんな気にしてる。でもその答えは?誰が知ってる?誰が決めている?その答えは?多くの人々はそれに時間を費やしたりしない。なぜならそんな事どうだっていいからさ。けどそれは果たして正しいだろうか?本心だろうか?」
「ねぇ、アイン。どういう事?何を言ってるの?」
「失礼。少しだけ興奮しているね。つまり正直になりなさいって事。ホントは知りたいんだろう?あなたがなぜあなたなのか今夜は特別にこのアインが教えてあげよう」
アインはそう言うと立ち上がった。
そして両手を広げてみせた。その瞬間背中から6枚の翼が生えて光り輝いた。頭の上には光の輪が浮かび上がる。
「お待たせ致しました。この私、
「アイン、君は天使なの?」
「フラフィ、君のおかげで私はとうとう
アインが手をかざすと
フラフィの後ろで光の檻に入れられたライの姿が現れた。
ライは相変わらずニヤニヤとした不気味な笑顔のまま光の檻の中で座り込んでいた。
「どういう事?アイン、なんでこんなことを?どうしてライを捕まえてるの?」
「フラフィ、まだそれを信じてるのかい?ライはRAYじゃないよ。つまり光じゃない。ライはLie。嘘ってわけ」
「どういう事?」
「まだわからない?ああ、そうだよね。黒猫だものね。猫を被ってるからね。わからないよね。フラフィではお見せしようね。この黒猫ライが一体何なのかを」
アインが手をかざすとライはむくむくと大きくなり巨大な黒い1つ眼の怪物へと姿を変える。
フラフィはその姿に怯え、腰を抜かして倒れてしまう。
「フラフィ、君が訪れたどの場所でも死人がいたよね?ナイフ、ひよこ。そのどれもにこのライが関わっていた。このライの本当の姿、つまり答えは
1つ眼の怪物はギラギラとした黄色い目をギョロギョロと動かし、巨大な三日月のような口には所狭しに鋭い牙が並んでいた。
フラフィは混乱した。一体どういうこと?誰か説明してほしい何が起きてるの?
アインはそんなフラフィを他所に話し出した。
「彼は死神。死そのもの。ある日彼は私の所へやって来てこう言ったんだ。なぜ私は死神なんだ?ってね。そこで私は提案した。私は運命の天使だからどんな運命さえも変化させる事ができると。君が死神、死そのものを辞めたいのであれば代わりに黒猫の運命を与えると」
アインは大きな杖のようなものを光から作り出した。
「彼は喜んでいたよ。だが、私は運命の天使。死そのものを辞めるということはそれなりの代償が必要。だからフラフィ。君の運命を変えた。君の
アインは杖をライに向ける。
「運命とは残酷なものだよね。しかしライはその答えに辿り着けなかったみたい。ライは常にフラフィを守り続けた。黒猫でありながら。しかし、所詮は黒猫。黒猫には運命を変えることなんて出来ない。死神にもね。死神は運命に従い、ただ順当に、ただ無情に、ただ虚無に。死を与えるものだから。おかげで困ってしまったよフラフィ。私は運命の天使アインであるのにも関わらず、死を与える存在にもなってしまった。もちろん、この運命には私は大いに満足しているよ。バカな死神と哀れな悪魔という低コストで死の天使アインへと私は昇華したのだから」
アインの持つ杖が光輝き先端が眩い光を放ち始める。
「運命は変えられない。本当の姿なんて存在しない。多くの人々はそれに気が付かない。ただただ、囚われている。自分は特別だと。最初から決まってるのに。運命の天使アインに全て支配されている。それがこの世界の
「随分と大きく出たな」
ふと聞こえたのはライの声だった。
フラフィは久しぶりに聞いた声に振り向くとそこには姿は1つ眼の怪物だがフラフィには黒猫の姿だったライが見えた。
「フラフィ、すまないね。俺は死神をやめれなかったよ。俺が死を与える事に嫌気がさしたばっかりにフラフィ。天使の君を悪魔に変えてしまったね」
ライはいつもと違っておかしくなっていた。
「ライ、別にいいよ。僕は嬉しかったから君と友達になれて」
「フラフィ、最後に教えてくれないか。君はどう生きたい?」
「え?」
「この羽の生えた鳥人間の言うように哀れな天使だった悪魔として生きたいか?それともその運命を変えたいか?」
「僕は、僕は……」
「フラフィ、君には世話になったから教えてやるよ。運命なんてのはいくらでも変えられるってこと」
アインはフラフィとライの間に入り込む
「黙れ。死神。お前はもう必要ない」
杖から光の一閃が放たれその閃光は黒い怪物を貫く
怪物は大きな叫び声をあげて弾けるようにして消えてしまった。
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