6章 悪魔だって考え込む

フラフィとライは月明かりの廊下を歩く。


『気まずい』というのはこういう時の為にあるのかもしれない。


一人と1匹に会話はなく、ライは時々振り返り無言で歩くフラフィの顔色を伺う。『どうした?』『変な奴だな』と言ったような表情を浮かべる。ライに取ってはごく普通の出来事だったのだろう。


『猫がヒヨコを獲った』


一般的に猫が獲るものとされるのはヒヨコではなくネズミである。

ライは喋る猫、体の大きさだって自由自在でいつもニヤニヤとした不気味な微笑みを浮かべていたりする。そんな猫が『ヒヨコを食べた』と聞かされて驚いたりなんか普通はしないのかもしれない。


どうしてフラフィはこんな気持ちになっているのだろう。

フラフィは気持ちの整理も含めて自問自答を繰り返した。

フラフィは小さな悪魔だが、頭は賢かったので考え込むことに抵抗はなかった。

今夜フラフィはあまりにたくさんの出来事を経験してしまった。

魔界から追放され、初めてくる人間界で、不思議な館に辿り着き、不気味な猫に導かれ、食材達に囲まれて、ナイフに濡れ衣を着せられ、不気味な猫に弁護され、それが終わったと思っていたら江戸っ子気質のザトウムシに意味不明な話をされ、関西訛りのシロヒトリに優しく歓迎され、強面のヒヨコに脅されてそのヒヨコが不気味な猫の怪物に食べられた。


どこから整理していいものやら。

きっとどこから整理しても同じなのだろう。

不思議な事に、こんなに不気味で怪物に変身する猫に対して

フラフィが感じているのは『』ではなく『』だった。


これまでの出来事は確かに不思議なものだった。

けれどいつも始まりは猫で、終わりも猫である。


この猫は本当にいいのだろうか?


助けられた事もある。弁護をしてくれたり、落としたであろう『睡眠』を拾ってくれたり、強面のヒヨコから身を守ってくれたり。

しかしはいつも猫。



「どうして黙っているんだい?」


ふと聞こえたのはライの声だった。

ライは振り返り、廊下の真ん中で座り込み、いつものニヤニヤとした不気味な笑顔でフラフィに尋ねた。



「何か気になる事でもあるのかい?」


「うん。少し考え事してる」


「考え事か。それは疑問だね」


「うん」


「疑問はいいね。疑問のある花は枯れないから。答えを持った花は枯れるらしいよ」


「答えを知ると枯れてしまうの?なぜ?」



「答えだけ知っていたって花は花だからね。あんたはどうかな?答えを知りたいの?それとも知りたくないのかい?」



「知りたいけど、知りたくないかも」



「じゃあ



「どうやって?」



「またあんたはおかしな事を言うね。あんたはがあるじゃないか」



ライもだと思って聞いているとこれが何もおかしなことではないと思えるが、フラフィは今夜聞いた事の殆どが理解する事は出来ていない。

どちらかと言うと


「ライ、君はどうしてここにいるの?」



「ここに居るからさ」



「僕と出会った時、君はよく知ってるようだったよね。君はここの住人?この館に住んでいるの?」



「さあどうだろうね。猫は気まぐれだから住むところも転々とするものだよ」



「じゃあここに来る前はどこにいたの?」



「もちろんにいたとも」



「だから、それはどこなの?君はどこから来たの?」



「おや?またまた、おかしな事を言うね。君と一緒にこの廊下を歩いてきただろう?」



フラフィは質問しているのがバカらしくなった。

そしてそれと同時にイラつきを覚えた。


「ライ、君は変だよ!」


「そうさ。イカれてるって言ったじゃないか」


「そうじゃなくて!僕の事をどうするつもりなの?なぜ君は僕に怖い目に合わせるの?さっきも大きくなったり!変だよ!」



「ハハハ、猫は気まぐれだから体の大きさだって気まぐれさ」



「それって本当?君は本当に猫なの?」




フラフィはつい口走ってしまった。

疑問の答えを口に出してしまった。

おかしな事をたくさん経験した。

そのどれも確かに不思議だし、確かめようにも答えなんかわかるわけなかった。それに、フラフィにとってそんな事は気にならなかった。


でもこれは違う。



フラフィはどこかでライを信用していたからだ。

数ある不思議な出来事の中で、唯一答えを出せそうな疑問。

それが目の前にいるこの猫はという事。

その疑問の答えを知っているのはきっとライなのだから。



ライは喉をゴロゴロと鳴らした。

そのあと振り返り背中を舐めた後にニヤニヤとしながら黄色い眼をチラリとフラフィに向ける。


「ハハハ、あんたは台所でを知り、何でもないお店でを知り、この廊下でを知ろうとしている。俺はだよ。もし、それ以上の答えを知りたいならあんたが自分で辿り着くしかないだろうね」



「辿り着くって、一体どこに?」



「決まっているだろう?だよ」




フラフィは自分の行き先こそわからないけど

ライが向かおうとしていたのはパーティーだった。


「そこにいけば答えがあるの?」


「さあどうだろうね。知りたければこの扉を開けたらいい」



そう言ってライが見つめた扉は今まで開けてきた扉と違い、金色の装飾を施したとても高価な黄金に輝く扉だった。

いつもライが飛び付いて勝手に開けていたがライは一歩後ろに下がってフラフィが自分で開けるのを待っているようだった。


フラフィはその様子に不安そうな顔をしつつもドアノブに手を掛けて

扉をゆっくりと開いた。







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