5章 存在意義

バタン!


大きな木の扉が弾けとんでお店にあったビンなどに当たり、ビンが割れて中身がこぼれ落ちる。

フラフィと2匹の虫は頭を押さえて被害を免れた。

フラフィが強く閉じた目をゆっくりと開けると扉の前に居たのは大きなボテッとしたお腹をしたビロードのツイードジャケットをふてぶてしく着たヒヨコだった。



「相変わらずボロい店だねぇ!なァ!?ティモにウランさんよぉ!おいおいおいおいおいのあたしをいつまで待たせんだい!?返済はどうしたのよ!返済はよぉ!!こっちはなぁもうとっくに!!!」



来るなり悪態をつくヒヨコは2匹の虫に詰め寄りくちばしを突き付けて話す。2匹は様子で縮こまる。



「や、やぁヒヨコの『イーグル』さんじゃあありゃしませんかぁ。こいつは良きところに来てくださいやしたね」


「ほ、ほなウランあとは任したで?わしは後ろで他の『言葉』の整理をせな行けなくてな」



「おっとぉ待ちな!ティモ!そうは行くわけないわよね!!お前ら害虫クズどもはすぐに木の葉の下に隠れたり、部屋の隅に巣を作りやがる。こっちはなぁお前らが返済しないからね!が収まらないわ!!いい加減にしねぇと2匹とも食っちまうわよ!!」



「いやいやいや、そんなん言うたらだめですよイーグルさん!な、なぁウラン!」



「お、おうよ!あったりめぇよ!イーグルさん!あっしらちゃんと返済はする気でいますよ!ほらぁ、見てくだせぇ!ちゃんとこうしてお客さんも来てますから!」



ヒヨコのイーグルはウランが紹介したフラフィをジロリと見る。

フラフィはと言うとイーグルの目を見て首を竦め、目を泳がせていた。

ヒヨコのイーグルはずい、ずい、ずいっと睨みを効かせながらフラフィに近寄り、匂いを嗅いだ。



「くんくん、ふん!なんだい!?おい、お前ら、こいつが何か知ってるの?こいつはなぁだよ!ったく、お前ら害虫はつくづくツイてないな!というより、こいつは傑作ね!悪魔に害虫と来た!この店はさ最悪サイテーだね!酷いもんだよ!」



フラフィはヒヨコのイーグルの言葉にムッとして言い返す。



「そんなひどい事言わなくてもいいのに。どうしてそんなことを言うの?」


フラフィがそう言うと2匹の虫も続いた。


「せや!そんな言い方違うやろ!」


「イーグルの姉御!世の中には言っていい事と悪い事があろうだろうよ!お前さんちっとばっかし言い過ぎってもんではないか!?」


ヒヨコのイーグルはドン!とお店の机を叩くと睨みながら告げる。


「黙れこのクズ共。お前らは所詮、虫けらと悪魔。そうでしょ?そこの2匹の虫けらと悪魔のお前は同じ。お前らはを理解してないらしいね!お前らをクズを歓迎する所なんてこの世のどこにもにないよ。もちろんこのあたしもお前らは大ッキライだ」



ヒヨコのイーグルの言葉にフラフィと2匹はとても悲しい気持ちになった。


2匹の虫はとても悲しげな顔をしている。

その様子を見たフラフィも悲しくなった。


2匹と一人の悪魔は現実から離れられていた。


知っていた。もちろん知っていた。



僕らは悪魔と害虫歓迎なんてされない。

それでも楽しい時間を過ごす事は許してもらえないのかな…?

どうして…?悪魔だから…?害虫だから…?


悔しい。悔しいけど、きっとそれがなんだと思う。


確かにこのヒヨコの言うとおり。僕らは邪魔者でお邪魔虫。


ああ、なんだか疲れた…。


そういえばここへは何しに来たんだっけ…?



フラフィはゆっくりと目を閉じた時、フラフィの目から小さな涙がポトリと乾いたホコリまみれの床に溢れて、小さな水滴を作った。












「さっきからピヨピヨとうるさいな」











店内に聞き覚えのある声が小さいがしっかりと響いた。


ヒヨコのイーグルはその言葉にギロリ!と睨みを聞かせた。


ヒヨコのイーグルが睨んだのはさっきまで棚の上で丸くなっていた猫のライだった。



「ライ、起きたの?」



「ああ、フラフィ。耳障りな小鳥の囀り戯れ言がうるさくてね。ゆっくり眠り探し物を取りに来たというのに。まあ用は済んだ。あんたのは俺がしっかりと、とったよ。さぁ、帰ろうか」


ライはそう言うとひょいと棚から降りて入ってきた扉に向かおうとするとライの目の前に大きな足がドスン!と降ってきた。


「おいおいおい!待ちな!このあたし、ヒヨコのイーグル様に断りなくどこへ行こうとしてんだい!?あんたさぁ、このあたしをナメてんのかい!?あぁ!?どうなんだ!!?」


その言葉を聞いたライはニヤニヤとしながらヒヨコのイーグルを見上げる。


「フフ、教えてあげよう。俺は自分の身体を事はあってもあんたの身体をことはしないさ。それとも、そんな事も知らないのかい?鳥頭バカでも、そのくらい覚えて要られるだろう?」



ヒヨコのイーグルは目を血走らせてくちばしをぎりぎりとさせながらライの背中をつまみ上げ、睨みつける。

くちばしに付いた小さな鼻の穴からは蒸気が吹き出していた。


「おい、あんた。誰にもの言ってんのかわかってんのかい?寝言とは言わないわよね?」


持ち上げられたライはニヤニヤしながら目を縦に細くする。

髭を上下に細かくしながら更にニヤニヤした。



この目は一度、見た事がある。

この顔は一度、見た事がある。



フラフィは思い出した。

この不気味な眼差し、邪悪な微笑み

あの時だ。あの時の顔だ。「断罪」の時のあの眼だ。



「ハハハ、ヒヨコは美味しいから好き大好物だよ」


ライはニヤニヤしながら口を小さく開く。

そこに並んでいるのは小さいが鋭く尖った牙だった。



「あぁ?何言ってんの?」




フラフィはふと気が付いた。


さっきまでだらりとライの身体は宙ぶらりんになっていたのに今は床に後ろ足が2本ついている。

あれ?身体が伸びた?



いやそうではない。


なんと、ライの身体はみるみるうちに大きくなっていく。


その様子を見たヒヨコのイーグルは慌てふためく


「ちょ、ちょっと!何がどうなってるんだい!!」


悪魔のフラフィよりも大きくなり

2匹の虫のウランとよりも大きくなり


そしてヒヨコのイーグルよりも大きくなった。


ライのふわふわの黒い背中はどんどん大きくなり、ついにはお店の天井を突き破り頭は空を覆い尽くす黒い雨雲のように大きくなった。

両手はまるで大岩

あまりの大きさに月明かりも隠れて代わりに、2つの大きな黄色い目がギラギラとヒヨコのイーグルを見ている。



2匹の虫は慌てて店の外へ逃げ出した。


ヒヨコのイーグルを見つめるライのニヤニヤとした口からはヨダレが滝のように流れている。


ヒヨコのイーグルはピヨピヨと怯えた声を出しながら恐怖に慄いていた。



「ぴぃぃぃー!何だいこりゃあ!!」


大きな口を開いたライはヒヨコのイーグルに伝える。


「ヒヨコの食べものチキンだろ?心配しなくても俺は理解してるさ」



ライの大きな口がヒヨコの身体を覆い尽くすのと同時に

辺りにを作った。



辺りが真っ赤に染まった後、フラフィは目を閉じた。



そしてゆっくりと目を開いたとき

先程の台所と同じく、小さな洋室に変わっていた。

虫もヒヨコも居ない。

まるで何もなかったかのような小さな洋室がそこにはあった。


ライはと言うとペロリと舌なめずりをしてニヤニヤとしながら

フラフィを見ながら答えた。



「さぁ、先を急ごう。だから」



ライの2つの黄色い眼は相変わらずそのを伝えていた。

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