第3話 3月25日 朝7:20(後編)『俺は変わったつもりだ、お前は変わったのか?』 

 はぁ、また始まった…


 涼子は心の中で今日何回目かのため息をつく。


 いつもこうなのだ。

 マサオは、言いたいことをいつまでも気の済むまで言うのだ。

 誰も止められない、止めたらもっと怒りがエスカレートするし、返事をしてもしなくても同じ結果になる。


 マサオはさらに続けた、

 「じゃあ、俺もそうするわ、それでいいだろ」

「じゃあ、一応俺の言い分だけ言っとくわ」

「俺はやっぱり何か、この間のことに対してあなた達に『殺す』とか脅迫きょうはく的に、いや脅迫じゃないな、おどしてしまってゴメン、そのことに対しては悪いと思ってるけど、とりあえず謝っとくわ、それは」


 涼子は『とりあえず謝っとく』に違和感を感じた。

 (何言ってんの?脅迫きょうはくと脅す(おどす)は同じ意味だよ、同じ漢字だよ。

「コロス!と脅迫きょうはくした」と

「コロス!とおどした」は一緒じゃん。加害者が罪を否定する時って、こうなのかな。もうイヤだ)


 マサオ「ね、こっち見て。それに対しては悪いと思ってるけど、あとはゴメン、俺わかんないわ、俺はやっぱ変わらずだよ」

「出来るだけのことはやってきたつもりだけど、無理なら無理じゃない、って思ってるかな」

 そしてマサオの語気ごきが強まった。

「うん、これ以上変わることはないからな、俺も」

「俺は逆にあなたに問いたいのはさ!」


(『問いたい』の部分は、声が大きくなった。また怒りだしたようだ)


「帰ってきて半年、1年近くさ、俺は変わろうとしたけどさ、あなたは変わろうとしたのか?してないだろ!」


 涼子は何と答えようか考えた。正直に思ってることを口に出すことはできない。

(どうしよう…)

 やっと何とか声が出た。「ん?なんて言ったの?もういっかい、ゴメン」


 マサオ「一年ぐらい帰ってきて、俺はいろいろ変わろうとしたけどさ」


(『一年』というのは、別居から戻ってきて1年という意味らしい。正確には3か月の別居から家に戻ってきたのは、1年6か月前だ)


 マサオ「俺は変わろうとしたと思うんだよ、あなたがどう思うかわからないけど、涼子さんは変わったのかなと思って」

 涼子「わたしが変わったか?」

 マサオ「うん、お互いうまくいかないのはさ、片方のせいだけじゃないじゃん。あなたは変わろうとしたとかなと思って、変わろうとした?いろんなことを…、まー、いいや」


 マサオの声色が普通のトーンに戻った。やっと怒りの感情をコントロールしたように見えた。

 涼子はこのタイミングで何か言おうと思った。

「ある意味ではね…」

 こちらが返事をする前にそれはさえぎられた。


 マサオ「そうだったか?ある意味では変わろうとしたっての?」

 それからきびすを返すと挑発した顔でこちらを見返し、「ありがとうございました」と横おじきをした。

 前にではなく、横に体を折るおじき。あごを突き出し、顔をを残したままで、ヤクザ映画とかで見る「ハイハイ、すんませんでしたねー、あぁ?!」って感じのよく見る挑発的ちょうはつてきなやつ。

 ほんと、人をバカにしてる。


 マサオ「君の気持ちはよくわかりました、じゃあっ!」

 マサオは寝室を出て行きながら吐き捨てた。

「俺も仕事に響きたくないからさ、それでやっぱ会社に電話番号かかってきたことは許さないから」


 バタン、ドアが閉められた。


(言葉が通じない…)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る