第13話 18年前

 涼子とマサオの出会いは18年前の夏だった。

 2人は、たまたまお互い初めて行った飲み屋(スナック)で席が隣同士になった。


 その日涼子は理由は忘れたが、勤め始めて日が浅かったパート先の飲み会に参加していた。


 マサオというと、会社の接待で6人で来ており、もてなす客の1人がその日誕生日だったらしく、花が届いたり、ハッピバースデーが流れたりと、大賑おおにぎわいとなっていた。


 別々のグループで隣のテーブルとはいえかなり近い距離だ。無視するわけにもいかず、お酒も入ったノリで「わー、おめでとうございまーす」などと白々しらじらしく付き合って声をかけたのが始まりだった。


 そこでの会話がまず「悲劇の運命その1」の始まりだった。


 涼子は「えー、今日誕生日なんですか?私ももうすぐなんですよ。3日後なんです」と愛想あいそ笑いをした。

 するとマサオが「ほんと?俺もだよ。えー、26日?同じ誕生日だよ、すごい偶然だねー」


 偶然隣の席で、偶然誕生日が同じ日、お酒も入ってるから異様なテンションで、なんて偶然なの!みたいになったのだ。


 今思えば、別に珍しくもなんともない。

 まああり得る話だろう。


 でもその後の展開が最悪だった…


 その場のノリで連絡先を交換し、1ヶ月後くらいに、マサオから食事に誘われた。

 涼子はなんとなく気乗りせず、1年近くも約束してはドタキャンを数回繰り返していた。


(なんとなく)というのはていの良い言い訳で、涼子はその頃、付き合って婚約までしていた彼氏とひどい破局をしたばかりだった。


 とうとう涼子は断り文句が底をつき、夜食事に行くことになった。


 もう一つ断りにくかった理由は、7月に入ったというのもある。

「今月は2人の誕生日だし、一緒にお祝いでもしようよ」というマサオの優しい言葉に、心が傾いたのだ。


 お酒が飲めるおしゃれな個室のある創作料理のお店でデート。

 しかしその日の会話はデートというには程遠く、マサオが7年間付き合ってた彼女に振られたという話に終始しゅうししていた。


(今日は何の会なの?)


 涼子は、ぼんやり話を聞き流していた。


 マサオが「もう俺は完全に吹っ切れたね」ってあまりにも何度も言うので、涼子は「そう言ってるうちは、まだ忘れてないってことだよ、その話をしなくなったときが、ホントに吹っ切れた時なんじゃない」なんて突然の先輩目線で話してしまったのだ。


 初めて食事をした相手に、友達のようなアドバイスをし、ちょっと親密な雰囲気に傾いたところで、お互いの家族やきょうだいの話になった。


 これが「悲劇の運命その2」の始まりだった。

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