第1話 3月25日 朝6:30 ベッドにやってきた夫

 3月25日(月曜日) 朝 6時30分頃


 この話はなかなかキモいです。これから読む方は気を付けてください。


 夫のマサオがベッドにやってきて抱きしめようとするので、涼子は体が強張こわばった。

 マサオの体からは、お酒のにおいがする。


 涼子は、マサオの抱擁ほうようを拒否した。

 するとマサオは「こっち見て、ね、ほら、目を見て」と何度もくり返す。


 涼子はゆっくり夫を無言で見つめ返した。


 マサオの言葉は続く。

「いつまでそういう態度をとるんだ?」

「話し合いもしないでそういう態度を取り続けるつもりか?」

 いつの間にかマサオの声は怒りを滲ませている。しかしマサオは自分の言い方が人を威嚇いかくしているとは気づいていない。


 涼子は黙り込む。こういう時は、何を答えてもマサオの逆鱗げきりんに触れる、否定される、ある時はひどい言い合いになるからだ。


 ちょうど一週間前の3月17日(日曜日)の夜、マサオは涼子の胸ぐらを掴み、娘の前で言ったのだ。


「お前たち殺してやる!」


 涼子は、その時のマサオの顔が脳裏のうりをよぎり、

身を固くした。


 涼子の隣で寝ていた娘のみゆが目を覚ました。父親の声に驚いたのだろう。そして涼子を手でおおって言った。


「ママを殴らないで…」


 涼子はみゆの言葉で一瞬頭が真っ白になった。そして心のなかで叫んだ。

(この場所で娘を育てるわけに行かない。はやく逃げなければ)


 マサオは続ける、

「ふーん、あなた達そういう態度をとり続けるっていうのか」

「俺も殺すって言ったのは悪かったよ、ごめんな」

「でもあなた達もヒドイよね、あ、ひどいって言ったらいけないんだっけ?」

「俺は傷つくよ」

「もういいや」

 そしてドアを締め部屋を出ていった。


 マサオはこういった会話の終わりには、「わかった、わかった、もういい」と言うのが常だ。


 それから5分後のことだった、またマサオが寝室に戻ってきた。

とてもイライラしているように見える。


 また一方的な会話が始まった…

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