3月17日 終わりのはじまりとこたえ合わせ

 ※登場人物※

 西田涼子にしだ りょうこ 主人公

 西田みゆ 涼子の娘(14歳)

 西田マサオ 涼子の夫

 近藤七海こんどう ななみ 涼子のいとこ

 高岡彩子たかおか あやこ 涼子の高校の同級生

 田島夏子たじまなつこ 涼子の13年来のママ友

 青木みどり 弁護士

 

 3月17日(日曜日)

「終わりのはじまり」どこかで聞いたことがあるいいまわしだな、たしかマンガ「21世紀少年」でのセリフだったような気がする。


 なぜこんなことになったんだろう。

 今日は「終わりのはじまり」って表現がピッタリだ。


 最初に雲行きがあやしくなってきたのは、今朝、夫のマサオが洗面所で、娘の塾の保護者会に行くのが間に合わないかもと言い出したからだ。


 1人娘のみゆは、来月4月から新中学3年生、高校受験にいどむ15歳となる。


 この時期、すべての高校の合格発表者数がでそろい、大手の進学塾では来年度の新中学3年生向けの保護者会が行われる。

 今日は娘の通う塾で「高校入試結果報告会」が行われる。

 3日前の3月15日には、公立高校の合格発表があったばかりだ。


 塾の保護者会では、実際の高校入試の「合否を分けた出題問題」に沿って、傾向と対策が教科ごとに説明がある。

 さらに家庭学習での合否をわける教科別の勉強法、公立高校入試の選抜方法(一般、推薦、特色化)の倍率、塾における難関私立高校の合格率はどうだったか、など細かいデータが発表される。

 また、家庭で親ができる精神面でのサポートについても具体的にアツく語ってくれるのだ。


 ハッキリ言って、娘の一生を左右する大事な保護者会だ。


 それなのに(『それなのに』は、涼子の基準だったのは確かだけど)

 マサオの今日の予定は、朝から親戚と麻雀、夕方は車の点検に行き、その後に塾へ来ることになっていた。涼子とは保護者会の席で合流するはずだった。

 しかし朝からマサオは「保護者会って何時からだったっけ?」と涼子に聞いてきた。

(え?1週間前に口頭でも伝えてるし、家族の共有カレンダーにも入れてたし、あんなに何回も言ってたのに)

 そう言いかけたが、涼子は堪えた。

 後にマサオから「保護者会に行かないとは言ってない。開始時刻に間に合わないかも知れないから予定を調整しようと思った」と言い訳されたが、そもそも問題はそこではなかった。


 涼子はとうとう声に出した。

「どうしてそこを天秤にかけるわけ?そもそも麻雀も車の点検も今日じゃなくても行けるでしょ?」

「娘の高校受験と麻雀、どっちが大事なの?そこを天秤にかけるのが信じられない。これまでもいつもそうだったじゃない」


『どっちが大事?』発言はあるあるなんだろうけど、涼子が実際に口に出したのは結婚16年目にして今日が初めてだ。


 そこからは文字通り『ふうふげんかはいぬもくわぬ』のオンパレードとなった。


 マサオ「じゃあ、もうお前は行かなくていい!俺1人で行ってくる!」 


つづく

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