もちろん全部じゃなくていい〜河辺璃子と多良奈央子〜2
多分、噂は学年だけじゃなく、全校に広がっている。
だって、あの告白の時、千崎くんは皆が見ている中、堂々と私の教室に入ってきたし、その後二人で授業をサボった。
それに前は、サッカー部員に見られている中、グランドで二人で話した。
どう考えても、もうバレている。
しかも、千崎靖人は、私達が付き合っていることを隠そうとしなかった。
こっちがドキドキしてしまうほどに。
「奈央子〜」
放課後、私の教室にやって来た千崎くんは何の躊躇いもなく私の名前を呼んだ。
自分の顔が赤くなるのが分かる。
嬉しいけれど、恥ずかしい。
「お〜いいな〜俺も彼女ほしい」
とか
「ひゅ〜ひゅ〜!いいね〜!」
という冷やかしみたいな声も聞こえる。
「ちょっと、千崎くん。堂々としすぎだよ。こういうカップルは嫌われるんだよ」
と小さな声で訴えた。
「ごめん。でもさ、つい、嬉しくて」
申し訳なさそうな顔で、それでいて格好良い笑顔で言うから、許さないわけにはいかない。
「もう少し、こっそりするのも楽しもうよ」
と、機嫌を取るみたいに私が言うと、
「それもそうだね。さ、帰ろっか」
と言いながら、私の手を引き、教室を出た。
こっそりの意味を分かっているのか、千崎靖人。
そう思いながらも、日に日に明るくなる自分の感情を実感していた。
「あれ?部活は?」
「サボる」
「ダメだよ!」
「えー」
「今日のサボりの理由は?」
「デート」
「ダメ」
「なんで?告白は良くて、デートはダメ?」
「うん。告白は良くて、デートはダメ」
「ケチ」
「じゃあ、一箇所だけ行ったら、部活行ってね」
「分かったよ」
今度は私が千崎くんの手を引き、目的の場所へ向かった。
「ここ?」
すぐに着いたその場所で、千崎くんはふてくされたみたいな顔をしている。
「思い出の場所だよ。またここに二人で来たかったの」
そこは私達が出会った廊下だった。
今、あのポスターの前に二人で立っている。
私は手を伸ばし、ポスターに触れた。
「ん?何してるの?」
千崎くんは私を見て、不思議そうな顔をした。
「これ、おまじないなの」
それを聞くと、千崎くんも私の真似をして、ポスターに触れる。
「おお。なんか、願いが叶いそうかも」
「でしょ」
二人で笑い合った。
言葉で表せないほどの幸せを感じる。
今日の日記も大変なことになりそうだ。
ここ最近の日記は、手が疲れるほどの量を書いている。
「じゃあ、私は図書室に行くから。部活頑張って」
「えー。俺も帰宅部になろうかな」
「待ってるから」
「えっ。いいの?」
「うん」
「じゃあ、頑張るわ」
千崎くんは笑顔で部活に向かい、私は図書室の前まで行った。
今日こそは、河辺ちゃんに話してみたい。
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