もちろん全部じゃなくていい〜河辺璃子と多良奈央子〜3

「おっ、来たね」


図書室に入ると、河辺ちゃんが雑誌を読むのを止め、こっちを見た。

今日も他には誰もいない。

河辺ちゃんが読んでいるのは、ファッション雑誌のようで、これは話の流れに使えるかもと思う。


「珍しいね。雑誌読んでるの」


「まあね。たまには」


 今日は河辺ちゃんに、彼氏ができたことを話したい。

そして、河辺ちゃんのことをもう少しでいいから知りたい。

どんな小説が好きで、休みの日は何をしているのか話してみたい。


「河辺ちゃん。聞かれるのが嫌だったら答えなくてもいいけど。普段はどんな服装なの?」


河辺ちゃんは少し目を大きくして、驚いているようだった。


「多良ちゃん、珍しいね。というか、初めて?私のこと詳しく聞いてくるの」


迷惑だったかな。


「ごめん。お互いあまり話し過ぎるの好きじゃない気がしてて」


すると河辺ちゃんは、雑誌のページを捲り、


「これ!こういうの」


と、あるページで指を差した。

差したところを見ると、少しオーバーサイズのトレーナーに、太めのズボンを履いた、カジュアルなファッションのモデルが写っている。


「私は、こういう、ちょっとボーイッシュでカジュアルなのが好き」


と言う。

私がそのページを見続けていると、


「多良ちゃん。色々聞いてくれていいんだよ?もちろん、聞きたいならね。私も多良ちゃんに色々聞いてみたいことあるもん。多良ちゃんが嫌でなければ。もう少し、踏み込んで話してみたい。あと、多分だけど。多良ちゃん、話したいことあるんじゃない?」


と、まるで私の心を読んだかのように話すのだった。


「どうして分かったの?」


「まあ、噂のせいもあるけど。でも、この静かな図書室で、自分の世界に浸っていた多良ちゃんと私の二人に、変化が訪れているのは、静かだからこそ、分かったかな。私、多良ちゃんの大切な世界を守る役目もしたいけど、その世界を知ることができるなら、それは嬉しいよ」


「河辺ちゃん」


「なんか、小説の読み過ぎで、恥ずかしいこと言ってる私?大丈夫かな?」


「ううん。恥ずかしくないよ。嬉しい」


「もちろん全部じゃなくていい。私も多良ちゃんに話したいことあるよ。というか、私の方が長く隠してるから・・・」


「え?」


「まあ、せっかくだから多良ちゃんが先に、言いたかったこと言っていいよ」


「噂を聞いたなら知ってると思うけど。私、彼氏ができたの」


「図書室はユニフォーム禁止か聞いてきた彼」


「そう」


「おめでとう。二人、すごくお似合いだったよ」


こういうのは初めてで、照れ臭かった。


「ありがとう。河辺ちゃんが話したかったことって?なんか長く隠してるとか・・・」


「私も彼氏がいるの。ゴールデンウィーク明けから」


「え?」


「ちなみに、多良ちゃんの彼氏と同じクラスで、隣の席だったこともあるみたい」


前に千崎くんと二人で話す為に、千崎くんの教室に行った時のことを思い出していた。


「もしかして、剣道部のモテる人!?」


「それ言われると、少し気が引けるけど・・・そう。小学生の頃から同級生なの」


「そうだったんだ!」


お互い真面目に見つめ合い、我慢できなくて笑い合った。


 それからお互いの恋バナでお互い盛り上がり、雑誌を広げて、今度ダブルデートの時に着ていく服について語り合う。

今までで一番うるさい図書室になってしまったかもしれない。


 勢いよくドアが開き、私達は驚いてその方向を見た。


「廊下まで楽しそうな声が聞こえてますけど?図書室ではお静かに」


意外な人物がそこに立っていた。


「すみません・・・」


二人で謝る。


「よし。これで初めて図書委員長らしいことが言えた」


溝口先輩が私達を少し偉そうに見ながらも、楽しそうに笑っていた。



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