第4話『告白②』

 女の子に告白されたことは、これが初めてじゃない。


 私は、ショートヘアーが似合う。身長は160cm後半、声も電話先で男と間違われるくらい低い。自画自賛だけど、公立中学の中では成績優秀だし、イラストを描くのも得意。というわけで、前の学校では、少数のおとなしめ女子達にモテた。そのうち一人とは付き合ったこともある。フラれたけど。


 だけど、運命の人認定されたのは初めてだ。しかも……


「初対面だよ!?」

「直感です。ビビッときました」


 相変わらず、私を真っ直ぐ見つめたまま、揺るがない少女。


 真意を知りたくて、少女の顔を観察する。どうやら、本気で言っているみたいだ。お宝を発見したみたいに、目の奥がキラキラしている。さっき感じたまばゆい光の正体はこれか。


 運命か。でも、私は君に何も感じない。かわいい女の子だなとは思うけど、それはアイドルを見る時の感情と同じようなもの。


「私にはわからないや。運命とか」


 正直に私の気持ちを告げる。


 曖昧な返事をして逃げることもできたけど。でも、少女の真摯な心をないがしろにするのは嫌だった。


「ごめんね。今、君が見ている世界を、私も共有できたら、良かったんだろうけど」


 私の思いを、そのまま彼女に伝えようと、言葉を紡ぐ。


「だから、君のことをもっと知ってから、告白の返事はしたいかな」


 久しぶりに心の奥底から言葉を絞り出したかもしれない。疲れた。体が強張る。


「あなたは……えと……」


 少女は何か言いかけて、また沈黙する。言葉を選ぶことに集中しているようだ。


 五分ほど経った後。


「あなたは……理解不能なことに対して反論する時、相手を傷つける言葉を選ばない人なんですね」


 少女は静かにそう告げた。小学生とは思えない、大人びた物言い。


「やはりボクはあなたが好きです。あなたに出会った瞬間世界が一変してしまいました。一緒にいるとドキドキして幸せな気持ちになります。そんなあなたに出会えたことは運命としか思えません」


 ふぅ……はぁ……と、少女は一息で愛の言葉を吐き出した後、息をととのえて、微かに笑みを浮かべた。


 この子、大人びてるんだか、夢みがちなのか、よくわからんな。でも、『変わった子』とは言われるタイプだろう。そのせいで、学校でいじめられているのかもしれない。私も人のこといえないけど。


 好奇心80%、同情20%……まだ恋愛感情は芽生えてないが、はみだし者同士、仲良くしてやってもいいかもしれない。


「なあ。スマホ持ってる?持ってるなら、連絡先交換しよ。これから何回かデートして、告白の返事したいからさ」

「デート!?」


 少女は、とてもはしゃいだ様子でランドセルからスマートフォンを取り出す。その光景を見て思わず笑ってしまった。


「あははっ遊園地に連れて行ってもらえる子どもみたい」


 あ。子どもに子どもみたいって言っちゃった。


「ボク、遊園地なんかじゃ、はしゃぎません……」


 子ども扱いされて怒った?


「東京のヂュンク堂本店だったら、すっごくはしゃぎますけど」


 ツボがズレてただけだった。


「でかい本屋だっけ?」

「はい!地下一階から九階まで、ビル全部が本屋なんですって!」


 本が好きなのか。TATSUYA行った時に書籍コーナーにも寄ってあげればよかったな。


 少女にメッセージアプリの操作方法を教えながら、連絡先交換を終えた。


 新しいフレンドの欄に『田村潮』と表示されている。


「たむら……しお?」

「うしお です」


 本屋の話で緊張がほぐれたのか、少女がスムーズに話してくれるようになった。


「本名は響きが男っぽくてヤなので、あだ名つけて呼んでください」

「え!?」


 急な無茶振りだ。どうしよう。「うーちゃん」?「うっしー」?でも本名が嫌いなら、何もかすってない方がいいかもな。もう、パッと思いついた単語を適当に答えよう。


「じゃあ、『姫』で。見た目が西洋の童話に出てくるお姫様みたいだから」

「えっ!?」


 今度は少女こと姫が驚き、顔を赤くした。


「それ……告白と解釈してもいいですか!?」

「はぁ!?違う!!そんなんじゃない!!ただ、君のビジュがお姫様みたいってだけで」

「わぁ……あぁー……!!」


 姫は両手で顔をおおった。耳まで真っ赤だ。


 わ。かわいい。キュンときた……恋愛感情が芽生えだしたかは、まだわからないけど。


 このムズムズから解放されたくて、スマホに目を向けた。十八時前。え。小学生、この時間まで遊んで大丈夫か?


「もう六時だよ。門限すぎてない?大丈夫?」

「……大丈夫です」


 何か隠してそうな「大丈夫です」だったな。家に帰りたくない事情でもあるのだろうか。


「私が家まで送るよ。どこらへん?」

「三丁目の……メガネ屋さんの近くです……」


 姫は頷き、自宅があるらしき方角に向かって歩きだした。


 素直に家を教えてくれた。家に帰りたくないというより、私ともっと一緒にいたかっただけかもしれないな。


 年上の責務として、私が姫を自宅まで送ることにした。姫が歩く方角に黙ってついていく。最初とは真逆の状況。


 赤信号で止まった時に、姫がスマホを取り出して、メッセージアプリをニマニマと見つめている。そこには私の名前が一人表示されていた。


「Ito さん?」

「うん。唯都いと。唯一の唯に京都の都って書いて、唯都いとって読むんだ」

「えへへっかっこいいお名前ですね。ほらっ見てください!ボクのフレンド、唯都さんだけですよ!」


 確かにアプリのフレンド欄には私しかいない。


「家族はアプリやってないの?」

「うざったいのでブロックしました。もうボクの世界には唯都さんしかいらないのです」


 もしやこいつ、問題児タイプか?

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