第2話『出会い②』

 向かい側の道路。アパートの駐車場付近に、数人の小学生がいるのが見えた。紫や水色やピンクのランドセルを背負っている。よく見ると、三人の少女達が一人の少女を囲んでいるようだ。穏やかな雰囲気ではない。


「本……返してください!大切なものなんです」


 囲まれた方の少女が、必死に訴える。


「ダメ。うしおが学芸会でセリフ言えなかったら、罰として本没収するって言ったじゃん」

「アンタのせいで、劇が台無しになったんだよ。責任とってよね」

「そもそも、図書室以外の本を持ってくるアンタが悪いんだよ」


 いきすぎた自治行為。嫌な光景だ。消しに行きたい。


「返してください!お母さんの形見なんです!」


 本を奪われた少女が、泣きそうな声で反論した。それを見たまわりの少女達がケタケタ笑いだす。あ。悪口を言っている時の新城達の笑い声に、よく似ている。


「潮ってひいきされてるよねー。化粧しても髪染めても怒られないしー」

「してませんし、染めてません……」

「ぼっちの陰キャのくせに目立っててムカつくんだけど」


 自治行為なんてもんじゃない。これは、いじめだ。すごく嫌な光景だ。


 嫌だ。


 気づいたら体が飛び出していた。車の通行の確認もせず、道路を渡り、小学生の群れにつっこんだ。


「おい!早く帰るぞ!今日はおばさん達が来るって言っただろ」


 大きな声でそう言いながら、いじめられている子の肩に手をおいた。この子の親戚のふりをして、クソ女子の群れから連れ出す作戦だ。


「やばっ……」

「中学生だ……」


 いじめ加害者どもはビビっているようだ。小学生から見た中学生って案外強いのかな。奴らはコソコソと「どうする?」と話し合っている。効果覿面。トドメをさすことにする。


「私、こいつの従姉妹なんだけど。その本、こいつのものだろ?返せよ」


 従姉妹というのは、もちろん大嘘だ。


「返さないと、窃盗したって学校に連絡するぞ」

「!?」


 脅しに屈したクソ女子の群れは、投げるように本を少女に返し、走って逃げていった。


「チッ……謝罪の言葉聞きそびれた」


 ムカムカした気持ちを吐き出すようにボヤく。


 残された少女にどんな言葉をかけてあげたらいいんだろう。「大丈夫?」いや、薄っぺらいな……でも部外者の私が深く事情に介入するのもなぁ……とか色々悩んでいたところ、少女に右袖を引っ張られた。


 少女の顔をハッキリと見る。なるほど、女を敵にまわす理由がわかった。美少女だ。大きな青い目、長いまつ毛、彫りの深い整った顔、白い肌、ウェーブのかかったブロンドの髪。イチゴ柄のワンピースとピンクのランドセルがよく似合っている。


 右袖をギュっとつかんだまま、少女は言葉をつまらせる。


「あの……えと……」


 顔を赤くして俯く少女。


 かなりの人見知りなのかな?私はかがんで、目線を少女に合わせて話しかけた。


「ゆっくりでいいよ。お姉さん、どうせ暇だから」

「っ!」


 少女は顔を上げた。赤面したままだが、なんだか嬉しそう。何か言いたそうに口をモゴモゴしている。


 しかし、そのまま沈黙が五分ほど続いた。これは……重症かも。こんなに口下手とは。


 けれど、少女の想いを無下にするのは嫌だ。ここは思いきって、時間稼ぎをしよう。


「私、これから遊ぶ予定だけど、一緒に行く?」

「っ!!」


 少女は目をキラキラと輝かせ、コクッと大きく頷いた。よかった、嫌がられなくて。


 さて。問題は元々遊ぶ予定が無かったということと、この辺に遊べる場所が無いということだ。


 どこに行こうか……?

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