薔薇とかすみ草

癒月連理

第1話

 私は彼を尊敬していたし、友として友情も感じていた。

 だからこそ伝えるのが怖かった、私のこの想いを。

 彼は男ながらにかなりの美貌の持ち主で、どこにいても注目の的になる。私はその陰でひっそりと佇むのが常だった。

 ある日彼は、

「君はいいな、羨ましいよ、僕はどこにいても休まらない」

 必ず誰かがくっついて来るから、とため息をつきながらこぼしていた。

「君はそれだけ魅力的なんだよ」

 私は本気で言ったのだが、まさか、と笑って流されてしまった。

 魅力的、それは人として、恋愛対象として、友人として、色んなものが絡まって私の中でこじれていく。

 手を伸ばせば届く距離にいる。

 しかし、それが今の私には空に浮かぶ太陽ほど遠くに感じてしまう。

 友としての時間が過ぎていったある日、彼のこんな話しを聞いた。縁談話だ。

 相手は家柄も器量も良い女性で、もう式の日取りを決めようか、なんて所まで進んでいるらしい。

 私より良家の女性と結ばれた方が彼も幸せになるだろうな。きっとそうだ……。

 久しぶりに彼に会うと、私はお祝いを言うと決めていた。

「久しぶりだね、ちょっとばたばたしていてなかなか時間がなくてさ」

「ああ、噂は聞いてたから知ってるよ。相手は良いところのお嬢さんなんだってね、結婚おめでとう」

 私がそう言うと彼は少し固まって。

「あー……それはー……実は破談になったんだ」

 は?私は面食らった。

「まさか君が振られたのか!?」

 有り得ないだろう、あれだけモテてきた彼が女性から振られるなんて。

 何があったのかと聞くと。

「僕がお断りしたんだが、なかなか納得してもらえなくて」

 相手の家とうちの両親を説き伏せるのに苦労した、ということらしい。

「相手の方に不足があった訳じゃないんだろう?どうして……」

「僕には想い人がいるんだ、だからお断りした」

 想い人、か。

 破談の話しに少しほっとしたのも束の間、彼にそういう人がいたとは、まったく気づかなかった。

「そうか、君が惚れるんだからきっと素敵な女性なんだろうな、応援するよ」

 ここで暗い気分になる自分が嫌になる。親友の恋を心から応援出来ないとは。

「その……実は好きな人は女性じゃなく男性なんだ」

 男、とは。驚きで言葉が出ない。

「ずっと引かれると思って言えなくて、でも好きになってしまったんだ君のことが」

 君って……まさか。

「本気かい?私みたいな面白味のない地味な男、冗談なら今のうちにそう言ってくれよ、期待なんてさせないで。君の陰に隠れるだけのなんの取り柄もない私なんだから」

「冗談なんかじゃない、君はいつでも僕を特別扱いしないでただ普通に接してくれた。それが僕は嬉しかったし心地よかった。君の隣にずっといたいと思っていたんだ、生涯ずっと、でもこれは世間的には日陰の恋だ、だから言い出せなかった」

 彼が本気なのがわかった、同じ気持ちだったのも、だから私はこう言った。

「私も同じ気持ちだったんだ、これからも君の隣にいたい生涯ずっと、だから……よろしくお願いします」

 私達は嬉し涙を流して抱き合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

薔薇とかすみ草 癒月連理 @egakukotonoha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ