#2、ようこそ過去の人

#2、ようこそ過去の人

「酷い目にあった……生身で空飛ぶのはもういいわ……」

一悶着あった商店街から5分ほど空を連れられて着いたのは、レンガに覆われた角張った建物だった。

「さぁ着きました。着いてきてください」

 エイミが命綱を手錠の鎖に巻き直し、エイジを引っ張る。

「ちょ、おい。危ねぇって」

 いきなりグイと引っ張られ、バランスを崩しそうになりながらエイジはエイミに着いていく。

 正面の出入口から2人が入ると、受付口にいる女性が出迎える。

「エイミちゃんお帰りなさい。あら? 通報にあったユーザーと特徴が違うみたいだけど?」

 女性がエイジを見て首を傾げる。

「ただいま戻りました、ヒナコさん。ちょっと状況が変わっちゃって。通報されたユーザーの方は気絶してたので、別班に頼んでます。私は今からこの人の聴取をしてきます」

 そう言いながらエイミが手錠に繋がっている紐を引っ張る。

「こらエイミちゃん、ユーザーとはいえ丁寧に扱わないとダメよ」

「ごめんなさい……」

 案の定怒られていた。少し面白かったがエイミの期限を損ねそうだったので顔には出さなかった。

「んんっ、それでは行きますよ」

「分かったよ。やっとか」

 エイミが咳払いをして着いてくるよう促す。からかいたくなる気持ちを抑えてエイジはそれに着いて行った。




「では聴取を行います。まず名前と年齢を。あと住所と職業も教えてください」

 聴取室1と書かれた部屋に連れていかれ、エイミと向かい合って座らされている。

「ちょっと待ってくれ、俺が何をした? 犯罪的なことは何もしてないと思うんだけど」

「とぼけないでください。キ物はキ物管理部隊カタログのメンバーか、例外的に認められたユーザーしか所持してはいけません。無許可で所持した上にそれを使うことは重罪です。それでも心当たりがないと?」

 今の所あらゆるものに心当たりがなく、腑に落ちないエイジは個人情報の提出を拒否する。しかし、エイミは眉をひそめて更に疑いを強めるだけのようだった。

(まぁ、その色々と訳わかんない状況を確かめるために大人しくここに来たんだが……)

「まずそのキ物っていうのに俺は心当たりがない。というか、俺が知ってる名前と違う。お前が持ってた『天使の弓』と『天使の羽』もそうだけど、たぶんそのキ物? っての全部俺の物のはずなんだけど」

 全部俺の物と宣うエイジに、エイミは驚くより先に納得してしまった。

「あぁ、つまりあなたは頭がおかしいんですね。納得しました。恐らくキ物の副作用でしょう。それなら今までの言動も納得できます」

「いや、ちょっと待て。酷くないか? 俺は嘘を言ってるつもりは無いぞ?」

 恐らく年上、それも公職っぽい人間とは言え、初対面の人間に頭がおかしいやつ扱いされ、流石のエイジも頭に来る。

「でもそうでもないと、『キ物は全部自分の物』なんて世迷言言えるはずがありません! そもそもこれを何だと思ってるんですか? 少なくとも300年以上前からあるオーパーツ。神によって作られたなんて説もあるぐらいの代物ですよ!?」

「は!? お前こそ何言ってんだよ? これ作ったのは俺の親父だぞ!? そんな見ず知らずのやつが作った物なわけあるか!? ……おい待て、今なんて言った?」

 お互いの意見が噛み合わず、ヒートアップして行く。もはや聴取なんてものはどっかに行ってしまい、聴取室には2人の言い合う声が響くだけだった。だが、エイジがエイミの有り得ない発言によって一瞬で冷水を浴びせられたように真顔になる。

「はーいはいはい、2人とも落ち着いて。聴取室の外まで響いてたよ。特にエイミちゃん、君がこんなにムキになるとはらしくないよ」

 突如、場を切替えるように手を叩きながら1人の男が入ってくる。

「……誰?」

「ジャック隊長! ごめんなさい……」

 ジャック隊長、と呼ばれた人物は気にしないでと言うようにニコリと微笑むとエイジの方に振り向く。何故だがその笑みにエイジはぞわりとしたが。

「平エイジ、が君の名前でいいんだよね?」

「ん、あぁ……そうだけど。なぁ、どっかで会ったことあるか?」

(アルビノか……? サングラスとかかけてないけど)

 血のように赤いの瞳に左肩に結わえた白い長髪。そして血の抜けたような白い肌。そんな特徴的な人物を見れば忘れなさそうなものだが、エイジの記憶には無い。しかし、何故だかエイジは目の前の男をどこかで見たことがある気がした。

「いや、僕の記憶には無いね。というよりあるはずがない。君は目覚めてから何か変だと感じたことは無いかい?」

「いや、何も……? いや、ある。そもそも俺は死んだはず……」

「え?」

 隊長のジャックが話しているため邪魔をしないようにと黙っていたエイミだったが、エイジの発言に素っ頓狂な声を上げてしまい、2人の視線を引いてしまう。

「な、なんでもないです……」

 驚きより羞恥心が勝ってしまい、顔を真っ赤にしながら話を元に戻す。

「まぁ、エイミちゃんが驚くのも無理は無いね。僕もその発言は若干予想外だけど腑に落ちる」

「? 何が?」

 じわじわと有り得ない妄想がエイジの思考を侵食し始める。だがいくらエイジの身でもそんなことは無いと自身でも思っている。

「エイジ、君の誕生日は?」

「あ? 誕生日? 12月24日だけど……?」

 遠回しに聞いてくるジャックに若干キレながらそう答える。

「あぁ、違う違う。生年月日だ。生まれた年は?」

「2100年だけど……」

 それを聞いた瞬間、机を挟んで向かいに立っているエイミが目を見開いて、また素っ頓狂な声を出すのを我慢してるのを感じた。

「そっかそっか。うん、エイミちゃんとエイジの話が合わないのも納得だ」

「なんなんだよ一体……」

 いつまでも話を引き伸ばすジャックに段々とエイミに向けていた怒りが湧いてくるエイジ。

「ごめんね、怒らせる気はなかったんだ。結論を言おう」

 そう言うとジャックはまだ勿体ぶるようにゆっくりと口を開く。

「ようこそ、現代へ。過去の人。今は2421年だ」

「はぁ!?!?!?」

 先程湧いた有り得ない妄想が現実となり、今度はエイジが素っ頓狂な声を上げる番だった。

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300年眠ってたら俺の玩具達がなんか大変なことになってました。〜とりあえず思い出の品なんで返してくれ〜 プロット 武内将校 @Takeuchi0918

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