300年眠ってたら俺の玩具達がなんか大変なことになってました。〜とりあえず思い出の品なんで返してくれ〜 プロット
武内将校
#1、初対面は涙
強盗は真昼間の商店街を逃げていた。
「はぁっ、はぁ、どけぇ! 死にてぇか!」
その必死な形相を見ようとする者、そして1歩でも逃げ遅れた者は強盗に弾き飛ばされて吹き飛ぶか、強盗の後からやってきた突風に弾き飛ばさるかのどちらかだった。
「止まりなさい!」
そして、その後方を上から追いかけてくる金髪を短めのツーサイドアップで結わえた少女が1人。背中から天使のような大きな羽が生え、その手には数字の「3」のような形をした変わった弓を構えいる。
「1、2、3……」
その弓に矢を2本番え、秒数を数える。
「11……狙うのは足!」
そう叫んで矢を放つ。すると、矢は少女が叫んだ通りに強盗目掛けて飛んで行き、足元のコンクリートと共に強盗の足を靴の上から粉砕した。
「ぐっ、ぎゃああああ!? とっ、止まれねぇっ!?」
風より速く走っていた強盗は急に足を止められ、勢いそのままに地面すれすれを飛んでいく。このまま地面に激突すれば強盗の命は無い。
「玩物『#30補助輪』」
しかし、どこからともなく強盗の目の前に現れた少年の呟きと共に、地面に激突する寸前だった強盗が急に起こされ、その場でピタリと止まった。
「はぁ、た、助かった……なんか知らねぇけど歩けるようになってるしオレは帰るわ。ありがとうな」
先程まで必死の形相で逃げていた強盗はぽん、と少年の肩を叩いて粉砕された足とともにその場をさり気なく離れようとする。
「あ、待った。それ返してから帰ってくれ」
しかし、そう言って少年が足払いすると、「ぶフェ!? 痛っぁ!?」というみっともない声とともに転ぶ。
そんな強盗を他所に少年が強盗の足、正確には靴に手をかける。
靴に手をかけられた瞬間、強盗が追われていた時以上に慌て始める。
「お、おい。お前、それがなんだか分かってんのか!? やめろ、おい!」
「分かってるよ。玩物『#11瞬速』。……元はただ速く走るためだけに作られた靴だ」
最後は呟くように言ったため、足元に転がる強盗にも聞こえなかった。
「さて……」
少年が強盗から奪った……回収した靴を少年の黒い瞳がじっと見つめると、それは吸い込まれるように少年の手の平に消えていった。
「か、返してくれぇ……それがなきゃ俺はぁ……」
「回収完了っと。そこの君、名前は?」
強盗が情けない声を上げるが、少年はそれを無視して目の前の通信機でやりとりをしている少女に声をかける。
「強盗の捕縛にご協力ありがとうございます。……何者ですか?」
少女は警戒しながら、目の前の少年をじっと観察する。黒い髪に黒い瞳。Tシャツにパーカーを羽織って、ジーパンとスニーカーという出で立ち。どこにでも居そうなラフな格好をしている。しかし、今目の前で起きた強盗を止めてからの一連の出来事は明らかに普通では無い。そして、靴を奪われた強盗は痛みとショック、そして靴を使用した反動からか気絶している。
「気にしなくていいよ。俺も目的の1個は果たしたし。てか、俺が先に質問したんだけどな……まあいいや。俺は平エイジ。んーと、とりあえずそれだけ」
「エイミ・アンジェラ。キ物管理部隊・カタログのNo.14です」
「14って……偉いの?」
「まぁ、何千人単位いる組織の上から14番目と考えて貰えれば」
14という微妙な数字に首を傾げるエイジに、何も恥じることは無いと言うように堂々と答えるエイミ。その態度がそれだけの自信を持てる地位にいるのだとエイジに感じさせる。
「へー、凄いのは何となく理解できた。じゃ、その2つ、渡して?」
渡して、と手を伸ばした瞬間に放たれたエイジの異様な威圧感に、エイミは反射的に矢を番えたまま下ろしていた弓を構える。
「キ物管理規定により尋ねます。貴方は何者ですか? 先程強盗から取り上げたキ物はどこへ? 貴方自身もキ物を所持しているなら無駄な抵抗はやめてすぐにそれを提出してください。私が弓を構えた時点で貴方に逃走は許されていません」
「キ物、が何かは知らないけどとりあえずその
「は?」
玩具、とは自分が構えてる弓の事だとエイミは少し遅れて気づく。エイジの目線が「天使の弓」に向いている、と。
「……貴方はこれがなにか理解出来ていないのですか?」
エイミは先程からエイジと名乗る少年があまり自分に危機感を覚えてない理由がわかった。
「知らないようなので教えて差し上げます。今構えてる弓はキ物『#3天使の弓』。能力は距離を無視した必中効果と弓を引き絞る時間に比例した威力の向上です。先程見たでしょうし嘘かどうかは分かると思います。決して玩具などではありません」
玩具ではない、という言葉で若干語気が強くなる。
「いいや、それは玩具だよ。試しに打ってみる? 鏃にしてるの、ゴムでしょ? 吸盤程じゃないけど当たっても痛くないって」
エイミは不気味に思う。ここまで自信があると言うのはそれなりの根拠があっての事だろうが、それでも不気味だ。
「後悔、しないでくださいよ。……1、狙うのは腕っ」
チャージ1秒。ゴム弾でも当たれば痛みで動きが止まるぐらいの威力はある最弱の攻撃だ。しかし――
「あー、だめだめ」
その言葉通り、矢は当たるどころかエイミとエイジの真ん中あたりに落ちて届きすらしなかった。
「なっ……魔力切れ? いえ、キ物にそんなものは無いはず……一体何を!?」
所持してから1度も外れたことの無い、そもそも外れるはずがない矢が届きもせずに落ちる。今まで想像したことすらなかった出来事に、エイミは一瞬でパニックに陥る。
「玩物『#3天使の弓』。能力は弓を引き絞る時間に比例して射程が伸びるのと、その範囲なら必中だということ。射程距離は最大100メートルまで。俺に届かせるなら2秒ぐらいはチャージするべきだったな」
エイジが突然聞いたこともない能力を口にする。それはエイミの持つ「天使の弓」に似た能力だが、異なるものだった。
「一体……何が、どうなって……」
「分かった? んじゃ、その玩具返してね」
ショックから立ち上がれずにいるエイミを他所に、エイジは「天使の弓」に手を伸ばす。
「あ、待って……やだ、だめ……」
さっきまでの強気な姿勢が嘘のように、半泣きになりながら弓を抱え込む。だが、そんなことはお構い無しというようにエイジが強引に弓を奪い取る。
「あっ……」
「ったく、余計な手間かけさせて……ん、ほんとだ。これも変わってる。『瞬速』もそうだったけど、やっぱ全部変わってるのかな」
エイジが「天使の弓」を体の中に回収しながら、ぶつぶつと分析をする。
「かえっ、返して……返してよぉ……」
一方、エイミは子供のように泣きじゃくりながらエイジに手を伸ばしている。玩具を取り上げられた子供のようだった。
流石のエイジも一瞬前まで対峙していたエイミのあまりの変わりように、段々と可哀想になってくる。
「ちょ……そんなに泣くなよ。あー、もう子供かよ。はぁ、ったく……」
困ったように頭を掻きながら仕方ないと言った様子でため息をつくエイジ。
「だーもうわかったよ! 返すから。そんな泣くなって! なっ? ほら」
そう言ってエイジが手を差し出すと、シュルン、と手の平に先程回収した「天使の弓」が現れる。
「ひぐっ、ありがとう……ございます……」
エイミがそれを受け取った瞬間、目にも止まらぬ速さで矢を2本番え、それをエイジの眉間と鳩尾辺りに狙いを定める。今度はゴムではなく鉄の鏃で。
「ちょ、ええ……今の今まで泣いてたじゃん……」
「ぐすっ、涙は女の武器ですよ。どんな手段を使ったのかは分かりませんが、ゼロ距離です。この距離ならば外すことはありません。さぁ、大人しくしてください。キ物を提出すれば見逃そうかと思いましたが、もうそれでは済ませません。お縄についてください!」
目を真っ赤に腫らして叫ぶのは若干ヤケクソ気味に見えなくも無い。
(正直こんな鉄の矢ぐらいなんの脅威にもならないんだけど、ここで抵抗したらまた泣きそうだし面倒くさそうだな。それに、
「黙ってしまって、どうしました? 抵抗はしないということでいいですね?」
「あぁ、分かった。また泣かれたら面倒だし大人しく着いていくよ」
考え事をしていたエイジに勝ち誇ったような表情をするエイミに、若干イラッとしたので意趣返しに先程のことを蒸し返して反撃しながら、ゆっくり両手を挙げる。
「なっ、あ、あれはわざとです! いいから手を出してください!」
「はいはい。そういうことにしとくよ」
顔を真っ赤にしながらエイジの手首に手錠をかける。
「んで、その警察? みたいなとこどうやって行くんだ? 見たところ車もなんもなさそうだけど」
「あぁ、飛んでいきます」
手錠をかけられた割にはどこにも連れていかれる様子が無く、何故か脇から抱えられている状況にエイジは首をかしげる。そして、それに対するエイミの答えはシンプルだった。
「は、え? 飛ぶって?」
「あ、暴れないでください。命綱は結んでおきますが、落ちたら死ぬので」
エイジの質問を無視して、エイミは背中に背負った装飾のような羽を広げる。
「それは……?」
「キ物『#14天使の羽』です」
「は? おい待て、『天使の羽』に飛行能力なんて……」
記憶と違う使われ方をしている「天使の羽」に慌て始めるエイジ。
「だから暴れないでくださいって。いいから行きますよ。詳しい話は後で聞きますからっ!」
「痛い痛い、背中に当たってるプロテクターみたいなの痛いから1回離して……うぉぁ!?」
暴れるエイジを後ろから抱えて、エイミは地を蹴るのと同時に羽を羽ばたかせる。すると、2人の体はふわりと浮き上がり、もう1度羽ばたくと一気に速度を上げて商店街のアーチを抜けていく。
「おあああああああああああ!?!?」
直前まで余裕ぶっていたエイジの情けない叫び声を先程エイミが呼び、ちょうど到着した応援に聞かせながら。
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