第7話 超共振、魔法の才能②

『スパーク』。雷系統の初級魔法。

俺はこの魔法を気に入っている。

いや、俺だけじゃない、剣士すべてがと言ってもいい。


剣士にとっては、この魔法は生命線だ。

刀身に纏わせるため直観的に扱いやすく、ほとんどの魔物モンスターに有効。

物理が効かない相手ではこれを主体に立ち回ることになる。


そもそも、電気と金属は相性が良い。空気を媒質として放出するよりも、刀身から魔物の体内へ放出した方が電気伝導率がよく、火力も高い。

また、単純な斬撃だけでは大型の魔物を仕留めるにはかたい。

致命傷になりにくいからだ。

しかし『スパーク』を発動すれば、導電率の良い血液を駆け巡り、大型モンスターといえど有効打にはなる。

...改めて、この魔法の限界を知っておきたい。


「...準備は出来たかしら?」

少しボーっとしてしまったのか、ミラが心配そうに声をかけてきた。


「っ、ああ、悪い。考え事をしていた。すぐ始める」

俺がそう返答すると、ミラも防御魔法『プリベント』の準備を始めた。

ミラは目を閉じて詠唱を始める。心なしか、周囲の温度が上がり、きらめいているように見えた。...気のせいか?


いや、こうしている場合じゃない、俺も早く詠唱を始めなければ。

普段の使い方とは違い、要求は最大出力。それ相応の詠唱が必要になる。

「『其の雷鳴は天に轟き、地に築いた叡智を撃滅する』...」


俺は内なる魔素を励起状態にし、外なる魔素へ魔力情報を伝導する。

周囲の空気にピリピリと稲妻が散り始める。

徐々に電圧が高まり、普段より高純度な感覚。

...今までにない快感。

これを放てたらきっと気持ちが良い。

自分の限界を超えるような、そんな予感がする。


だけど...

これを、目の前の女の子に向けるのか...?

ふと過る罪悪感。俺の中の良心が『待て』と声を上げる。

それでも...


「いいわっ!来なさい!」

脂汗を浮かばせながらも、ミラの威勢のいい声。目と目が合い、心を通わせる。


そうか、わかったよ、ミラ。

遠慮はしない。期待通り、やってみせる!


「『スパァァック!』」

迸る電撃。耳を劈く《つんざく》く雷鳴。

通常雷というのは白い光を放つが、これは違う。

類まれな高電圧により青黒く発光している。

...直感通り、俺は限界を超えた。


ッしまった!ミラに直撃する!


...そんな俺の心配。しかしそれは杞憂に終わった。


ミラの周囲がキラキラと輝いている。

まるで桜のように散りゆくそれは、ある種、幻想的な女神を想わせる。

魔素の超常的な反応は、ミラのその紅髪に反射して、ただただ美しいと感じる。


これは大気中の魔素がミラの魔素に呼応して、煌めいているんだ。


しかし、本来ならばただの防御魔法であるはず。通常の魔素の共振反応とは違うようだ。

それは云わば『超共振』とでも言おうか。

普通ではありえない魔法の発現。それをミラはやってのけた。


縦横左右に迸る俺の黒雷も、しかしミラの『超共振』の前には無力。

ミラを中心とした半径1.5mほどの結界。それは絶対的な守護領域だった。


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