第48話 無能な第二王子

「みんな、迎撃の準備だ! エレーヌは外から詠唱魔法、ロベルトは呪術で応戦してくれ!」


「分かりました!」

「了解だよ!」


 最前線にレイドが立ち、後ろの方でエレーヌが待ち構えている。ロベルトはその中間あたりだ。


「ゴルゥァァァッ!!」

「来たか! 返り討ちにしてやる!」


 黒化ジャイアントベアーの剛腕がレイドに向かって振り下ろされる!

「ドォォォンン!!!」

「嘘だ、あの攻撃を受け止めたというのか・・・? 我でも歯が立たなかったというのに!」


「ゴルル・・・」

(重い・・・! が、こんな攻撃ロイクと比べたらまだマシさ・・・!)


「おりゃあぁぁぁ!!」

「ゴルッ・・・!」


 レイドがその腕を押し返し、振り払った!

 黒化ジャイアントベアーはそのはずみで少しよろけてしまう。


 エレーヌとロベルトはその隙を逃さなかった!

「Κάψτε το! Ω πορφυρή φλόγα! Δύναμη σε μένα!」

「隙ありさ・・・! Menj el! Menj a pokolba!」


「ドガァァァン!!!」

 エレーヌの放った爆裂魔術が黒化ジャイアントベアーの片腕を吹き飛ばし・・・


「ヴヴォァァ・・・ ヨコセ・・・ ヨコセ・・・!」

 ロベルトの呪術が片足を拘束した!


「ゴルゥァァァァァァ・・・!」

「よし! 効いているぞ! このまま押し切るんだ!」

 確実に仕留めきれると全員が思っていた・・・ が、


「・・・我もだ! おのれぇ! よくもファブリスを!」

「お、おい! 勝手に突っ込むな!」

「うるさい! うおおおっ!」


 マルクが無策にも切り込んでいった!

「ゴルゥ・・・?」

(不味いぞ! 動けないとはいえ、片腕は動く! あいつは死んでしまう!)


「クソッ・・・ 仕方ない、あれでもあいつは王族だ。ロベルト!」

「ああ、分かっているよ!」


「食らえっ! 我が奥義を!」

 マルクは魔剣から竜巻を繰り出した!


「・・・ゴルゥ」

「何! 我の攻撃が・・・ 効いていないだと!」

「おい! 危ない!」


 黒化ジャイアントベアーの腕は既にマルクのすぐ近くまで来ている!

「・・・へ?」


「ドガァァァンン!!」


「レイド! まさか、巻き込まれたのでは・・・!」

「大丈夫だ! 俺はここにいる!」

 レイドは無事マルクを抱え、脱出に成功していた。ちなみにマルクは気絶している・・・


「ゴルゥゥッ!」

「おい! 逃げる気か! ・・・なんて速さだ!」

「・・・もう見えなくなりました。レイド、追いますか?」


(今はこいつを連れて行くのが得策か・・・)

「いや、長らく戦っていて俺たちも疲労が溜まっている。ここは・・・ 退くしかないか・・・」

「そうですよね・・・」


 だが、放置していても非常に不味いということがレイドには分かっていた。他に生徒がいるのだ。


「俺だけでも・・・ 行くか?」

「また一人で行こうとする・・・ 駄目に決まっているではありませんか!」

「す、すまない・・・」


「僕たちが致命傷を与えたから、しばらくは大丈夫だと思うね」

「そうです。いったん帰りましょう」

「ああ・・・」


 そうして、レイドたちは森から離れるのだった・・・



 それから、レイドたちは元居た場所に帰ってきた。

 そこには逃げてきた生徒たちだけではなく、沢山の教師が忙しく対応に当たっていた。


「レイド君、エレーヌ! 生きていたか!」

「ロイクさん、森に黒き魔獣が・・・!」

「うん、僕たちも逃げ遅れた生徒の捜索で精いっぱいだよ。とにかく、君たちが生きていて良かった」


「他にも襲われた生徒が・・・?」

「・・・少なくともAクラスの生徒が三人食べられているそうだ。ところで、その担いでいる人はもしや・・・ マルクかい?」


「はい、黒化ジャイアントベアーと戦っていたら気絶して・・・」

「! そうか! どうだった?」


「・・・致命傷を与えましたが、逃げられてしまいました。その前に、ファブリスが食べられているのも見ました」


「そうか・・・ 何というか・・・ 自業自得だね。とりあえず、レイド君は来てもらえないか? 協力してほしい」

「あの! 兄さん、私は?」

 エレーヌがそう聞いてきた。


「・・・悪いけど、ここに残っていてくれないか? 忙しいから行くよ!」

「ロイクさん! 待ってください!」

 ロイクはレイドを連れてすぐにどこかへ行ってしまった・・・


「・・・さて、どうしようか? バイセン伯爵?」

「・・・・・・」

 二人の間には沈黙が流れる・・・


「ん? 体の調子が悪いのか?」

「・・・ぃぇ」

「? 嫌われている・・・?」


 レイドとマルクはすっかり忘れていた・・・ エレーヌは人見知りであることを。

 

(レイドがいないと上手く話せません・・・ 助けて・・・)

 内心すごく悩んでいるエレーヌであった。



 ちょうどその頃、レイドとロイクは他の教師が集まるところへ来ていた。


「・・・ロイク君! その生徒が例の少年か?」

「はい。そうですよ~」

(ちょっと、何をさせられるんだ?)


 顔も知らない教師がレイドに近づいて来る。

「君がバイセン家で鍛えられた戦士だね?」

「はい・・・ レイド・フォン・ユーラルです」


「よし、レイド君。あの魔獣について詳しく説明してくれないか? 話によると、君が一番戦ってきたらしいのでね」

「私に話せることであればなんでも」


 そうして、レイドは”黒き魔獣”について話し始めるのだった・・・

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