第19話 名も無き遺跡

 時は少し進み、レイドとエレーヌはバイセン領に広がる森の内部まで来ていた。

 ここはアミアン大森林と呼ばれる森で、様々な生物が生息している。

 アミアンの狩人たちは、ここで生計を立てているわけだ。


「さて、結構奥地まで来ましたね・・・」

 エレーヌがそうつぶやく。

「え、もう奥地なのか?」

 

 辺りは一面木、木、木・・・ ずっと変わらない光景が続いていた。しまいには、自分がどこから入ってきたのか分からない始末だ。


「まあ、もう1時間もすれば山脈にあたりますからね、実質森の終着点みたいな感じです」

「この森にはよく入るのか?」

「そうですね・・・ 数日に一度奥地に入って、脅威になるような魔獣を間引くので」

「間引くって・・・」


 あのドラゴンみたいなやつでも障害にはならないのか・・・? レイドは再びバイセン家の実力に驚愕するのだった。


「おっと、話をしている間に魔獣がこちらに近づいてきましたね。私たちのことを気付いたみたいです」

「え、近づいてきているのか? どこから?」


 レイドは辺りを見回すが、何も見つからないし気配も感じない。

「なあ、やっぱり何もいないじゃない・・・」

「レイド! 後ろです!!」


 エレーヌは杖を構える。その姿を見たレイドも即座に振り返り、魔剣インテグリーを抜刀する。


「グオオオオオ!!!」

「うわああああ!!」

 飛び出してきたのは巨大な熊。その巨体から爪が振り下ろされるが、なんとか反応が間に合い、剣で受け止めた。

(お、重い!)


「ぐ・・・ぅ・・・!」

 エレーヌのおかげで初動は耐えることはできたが、長くは持たないだろう・・・


「レイド! 大丈夫ですか!」

 エレーヌは即座に魔法で反撃をした。複数の炎魔術が魔獣めがけて発射される。


「グオォ・・!」

 魔獣に魔法が命中し、体勢が崩れる。その隙をのがさず、レイドは攻撃を振り払った。


 エレーヌが近づいてきた。

「レイド、あれはジャイアントベアです! ものすごくタフな奴ですが・・・ 今回は貴方の実力を見るために、後ろで観察しておきます。いいですね!」

「ああ、分かった・・・」


 レイドは再び剣を構える。

「グオオ・・・」

 ジャイアントベアにまともな物理攻撃は通じなそうだ・・・ 

(どうする? エレーヌの魔法は使えない・・・ 急所を狙おうにも目は・・・ あ、そうだ・・・)      


 何か思いついたようだ。レイドはジャイアントベアに突撃する。

「グオオオオ!!!」

 爪を振り下ろしてきたが、レイドはそれを避けて懐に入っていく。


「レイド! 何をする気ですか!」

 本来ならば、懐に入るのは自殺行為だ。攻撃が通じず殺されるだけだろう。本来ならば・・・ の話だが。


(攻撃の隙が出来てる。やっぱりこいつはオスだよなあ!)

 レイドの剣がグサッと何かに刺さる。

「あっ」

 そう、レイドが刺したのはジャイアントベアの・・・ 睾丸だ。


「ヴ・・・ ァ・・・」

 そのままジャイアントベアは悶絶して倒れてしまった。

 なんか口から泡をふかしているぞ・・・


「レイド! まさか倒せるとは・・・! しかし・・・ 私は男性ではないから分かりませんが、その・・・ やっていることがかなり鬼畜ではありませんか?」

 エレーヌが再び近づいてきて話しかけてきた。


「ははは・・・」

 いけない。こっちも股が寒くなってきたぞ・・・


「まあ・・・ 貴方の判断の速さには感激しますが、敵の存在を確認するのが遅いです。殺気くらい感じれるようにしといてください」

「分かったよ・・・」

 レイドはそう言うと、剣を収めた。


「それはそうとも、今回はごちそうですよ! ジャイアントベアの肉はおいしいんです!」

 エレーヌがウキウキしている。


「さ、それを持って帰りましょう!」

「え、持って帰るって、どうやって・・・?」

「こう持ち上げれば、いいんです!」

 

 すると、エレーヌは何やら魔術を唱え始めた。これは、浮遊魔術だ!

 さっき狩ったジャイアントベアが、プカプカと浮かび始めた。

「さあ、帰りましょう」


(あの巨体を持ち運べるのか・・・)

 レイドはエレーヌの実力に驚かされるばかりだ。

 しかし、今回はそれが良くなかったらしい。突如として、地面が揺れ始めたのだ。


「ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・!!」

「な、なんですか!?」

 なんと地面が徐々に崩落し始めたのだ。


「まさか、下に空洞が? しまった! 衝撃を加えすぎてしまったか!」

 後悔してももう遅い。そのままレイドとエレーヌは、崩落していく地面と共に落ちていくのだった・・・



「いたたたた・・・ レイド、大丈夫ですか・・・」

「ああ、なんとか・・・」

 エレーヌの浮遊魔術で助かった・・・


 ほっとしているのもつかの間。レイドとエレーヌは辺りを見渡した。

 辺り一面、大理石で作られたであろう古びた柱が並んでいる。


「すみません・・・ 私の落ち度です。ここは・・・ 何かの神殿ですか?」 

「分からないが、長い間使われていなさそうだな・・・」


 不気味な雰囲気だ。明かりは上にある穴からの日差しのみで、全く奥が見えない。


「浮遊魔法を使おうにも・・・ 今は使えませんね、何かの力によって阻害されています・・・」

 エレーヌが困ったようにそう言った。どうやら歩いてここから脱出するしかないようだ。


「しかたない・・・ 別の出口を探すか・・・ ん?」

 レイドが暗闇の中に、小さな赤い光がともっているのに気が付いた。


 それが1つ、2つ、3つと・・・ だんだんと増えている!


「侵入者・・・ ハッケン・・・ 侵入者! ハッケン!」

「きゃあああ!」

「なんだ・・・!?」


 何かが近づいてきている!

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