第二章 運命との戦い

第18話 黒き脅威

 狩人たちが集まる街アミアンは、今日も喧騒が絶えない。

 そこには、いろんな情報が集まっている。

 他愛もない話ばっかりだが、1つ異質な物が紛れ込んでいた・・・。


「知ってるか? 今の森の現状を・・・」

 とある戦士たちが話をしている。


「どうした? なんか狙い目の獲物でも出現しているのか?」

「いや、新種が出たらしい・・・」

「それがどうしたって言うんだよ。よくあることじゃないか」


「それが、今回は一味違うらしい・・・ なんとも、全身真っ黒の個体だとか・・・」

「で? 他に何かあるのか?」

「そいつらは、もともといる魔獣の形をしていて、魔獣も人間も襲いまくるそうだ。もともといる魔獣の数が減っちまうから、いまは懸賞金がかけられているんだよ」


「へえ、それは物騒なこった」

「通常の個体より強力らしい。注意して向かうぞ」

「おうよ」

 戦士たちは、いつも通りに狩りへ向かうのだった。


 そして、彼らは二度と帰ってくることは無かったという・・・



第二章 運命との戦い



 バイセン家では、今日も平和な日々が続いている。

 レイドが家に来てから実に2カ月がたっていた。


「レイド、あそこにある本を取ってくれませんか?」

「ああ、分かったよ」

 そう言うと、レイドは本棚の上の方にある魔術の本をエレーヌに手渡した。


「ありがとう、レイド」

 エレーヌともだいぶ打ち解けてきたようだ。距離も少し縮まったかもしれない。

 レイドも、普段カインなどに対して使う口調になっていた。


 エレーヌが"レイド"と呼ぶ姿をロイクに見られたときは、さすがに殺されそうだった。

「ア゛ア゛ア゛!!!!!・・・」

 今でもあの姿を思い出す。


 そんなことはさておき、今日はどうもラジから話があるらしい。

 もう少ししたら、エレーヌと一緒に行こうと思う。


「そうだ、レイド。貴方は魔力がほとんど無いですよね」

「そうだけど、それが何か?」

「近距離戦の訓練をしていることは知っていましたが、魔術を使用する敵に遭遇した場合は、何か対策でもしてるのかなと」


 レイドは、遠距離攻撃の手段を持っていない。

 故に、魔導士と戦うとほぼ詰んでいるのだ。


「対策はしていない。そもそも、実践すらしたことがないからな」

「実践・・・ ですか。本当にたたき上げの剣技で大丈夫ですかね・・・」

 エレーヌは少し不安そうに言う。


「多分、父さんは貴方に実践の経験をさせるつもりでいます。危ないと思ったらすぐに逃げてください。いいですか?」

「大丈夫だ。なんとかしてみる」

 レイドは胸を張って答える。好きな人の手前、強がってしまうレイドであった。


「そろそろ時間だ。ラジさんのところへ行こう」

「ええ、そうですね」

 そうしてレイドとエレーヌは、ラジがいる場所へと向かったのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 庭に出ると、すでにラジが待っていた。その横にはソニア、ロイク、そして・・・ カインの姿も見える。

「来たかね。レイド君」

「はい。ただ今」


「その様子だとエレーヌとうまくやっていけているようだな。なあ、ロイクよ」

「グ・・・ そ、そうですね父上」

 ロイクが苦汁を舐めたような顔つきをしている。


「ははは・・・」

 レイドは苦笑いする他には無かった。


「さて、今日呼んだのは他でもない。レイド君に実戦経験を積ませるためだ」

「はい、ある程度は存じております」

(エレーヌの言った通りだ。しかし、なぜカインがいるのだろうか?)

 レイドは疑問に思った。


「そうだな。本来ならば、ロイクに同伴を任せようと思っていたのだが・・・」

 ラジがそう言うと、ロイクに視線を向けた。


「こいつはいつレイドに危害を加えるか分からん。よって、レイドとエレーヌが適任だと考えた」

「な、な、な・・・! そんな! いくら何でも2人きりは・・・」

 ロイクの顔はついに絶望に染まってしまった。


「自業自得よ~ ロイク、そろそろ卒業しなさい?」

 ソニアがそう言った。その言葉がロイクにとどめを刺し、その場に崩れ落ちてしまった。


「あらあら~ 貴方にはカインの面倒を見るという仕事もあるから、まだ働いてもらうわよ~」

「よろしくたのむぜ、ロイクさん」

 カインが無邪気にそう一言を放った。 まさに追撃だ。

 そして、ソニアは冷酷無慈悲にロイクを連れ去っていった・・・


「・・・ゴホン、そういうことで、エレーヌもそれでいいかね?」

 ラジが気を取り直してそう言った。


「はい、分かりました。父さん。 で、何をすればいいんですか?」

 エレーヌは質問をする。


「それは自由で良い。レイド君が強くなったと感じた時点で引き返してくるんだ。それに、前衛と後衛で良い組み合わせだと思うしな」

ラジがそう言った。


「分かりました。では、決まりですね。ある程度の荷物を用意した後、さっさと出発しちゃいましょう。兄さんが帰ってきたら厄介ですしね」

 エレーヌはそう言うと、屋敷の方へ行ってしまった。

(大丈夫か・・・? 足手まといになって醜態を見せたくないなあ)

 レイドはそのことばかりを気にしていた。理由はもう分かるだろう。


「レイド君、君を信用しているからこそ、エレーヌに同行させたんだ。くれぐれもエレーヌに、変なことをするんじゃないぞ?」

「ハ、ハイ」

(こ、怖え・・・)


 レイドも逃げるように支度をするのだった・・・

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