第10話 話という名の尋問

「普通に聞くよ。なんでエレーヌと婚約したの?」

 ロイクがそう問いかけた。

「え、なんでって・・・」

 

 一番答えにくい質問が来た。エレーヌと婚約したのはあくまでも家の命令。そもそもレイドはエレーヌがどんな人物か知らない。

(でも、ここで家の命令だから、とか言ったら確実に俺の首か飛ぶ! 考えるんだ、俺・・・!)

 レイドは人生で一番頭を動かして良い理由を探す。 


 1、「運命を感じたから」といった場合


「ふふーん、エレーヌと運命を感じたって? うぬぼれるな! ボンクラが!」

 死。


 2、「エレーヌの名声を聞いている」といった場合


「へえ、よく知ってるねえ。つまり、肩書狙いか・・・ 可愛い妹に近づくな! 無能が!」

 死。


 3、「彼女のことはよく知らないが、これから親密を深めていきたい」といった場合


「グギギギギギギ・・・ 不純! 死ね!」

 死。


 ははは、詰んでいるじゃないか! 

 正攻法は通用しない。レイドは別の手を考える。

 

 何かピンとくるもの、何かピンとくるもの・・・

「????? なーんだ? 答えられないのかなー?」

 ロイクはせかしてくる。彼が足踏みするたびに地面がビキビキと音をたたていた。

 レイドは考えた末、一つの結論にたどり着いた。


「私がエレーヌと婚約した理由は・・・ 私が生き残るためです」 

「自分が・・・ 生き残るため?」

「将来、起こるであろう死の運命にあらがっているだけです」

 最後の手段、自分の目的を正直に言うこと。少なくとも相手からは嘘と受け取られることは無いだろう。


 ロイクは考え始める。

(こいつが生き残るためにエレーヌと婚約しただと・・・? 万死に値するが、いまいち目的が分からない。 もしかしたら、強さを求めているのか? つまり、強さを手に入れたら婚約も解消されるかも!?)

 何か勘違いしてくれたようである。


「ふふふ、面白いねえ、君。いいよ、君を鍛え上げてあげようではないか!」

 ロイクは両手をあげて宣言する。

(鍛え上げる? 婚約者としての自覚とか?)

 レイドもあらぬ方向へ勘違いする。


「ありがとうございます! 誠心誠意努力します!」

「その意気だよー、レイド君!」

 なぜか二人は意気投合したようだった。


(婚約者として、磨きをかけるため!)

(エレーヌと別れてもらうため!)

「「ふふふ・・・」」


「何だよ・・・ こいつら怖えよ・・・」

 カインはそうつぶやくのだった。

 

 レイドたち一行は道中で一夜を明けることにした。

 睡眠前、3人で会話をする。

「ふふふ、レイド君よ、エレーヌについて聞きたいことはあるか?」

 ロイクが話し始める。


(眠たいんだけど・・・)

 早く眠ってしましたい。だからごまかすことにした。

「ええ・・・ 迷いまs「まず、彼女の優秀さについて語っていこう!」

 レイドの話は遮られた。

 

「彼女は世界一の魔術師だ! あの年齢にして数々の魔法を操り、かつ実践経験も豊富! それだけではなく・・・ かくかくしかじか」

 ロイクは止まることなく話し続ける。

((お、終わらねえ・・・))

 レイドとカインは夜通し話を聞かされるはめになり、一睡も出来なかったのだった・・・


 朝日が昇り、小鳥がさえずる音がする。

「ん、もう朝か。仕方ない。妹の話はまた今度にしよう」

 ロイクがそう言う。

「「・・・・・・」」


「今日中にはアミアンに着いておきたい。さっさと出発しよう」

「「・・・・・・」」


 レイドとカインはよろめきながら立ち上がった。

「・・・いつかこいつに殺されそうだぜ」

 カインがそうつぶやく。


 (もしかしたら、死因はこいつかもしれない・・・)

 レイドもさらに危機感が増していった。


 レイドたちはそのまま半日間歩き続けた。

 その間も、ロイクは減らず口を叩いてばかりいる。


「飛んで行った方が速いのになあ」

 とか、


「え? 飛べないの? あ、そうだったー」

 とか。


 うるさくてうるさくて仕方がない。くそ、こっちは寝ていないっていうのに。

 ロイクはまだまだ元気があり、ハイテンションだ。


 次第に森が開けてきた。辺りには広大な平原が広がっており、前方に巨大な盆地が存在する。

 盆地の中央部には街が栄えているようだ。


「見えてきたね。あそこが我らがバイセン家の領都、アミアンさ!」

 ロイクは前方を指さしながら言う。

「おい、レイド様、見てくれ! 空に高速で飛んでいる奴らがいるぞ!」

 カインは空を飛んでいる魔導士を指さす。


「ああ、あれはうちの兵士だよ。上空からやってくる魔獣の処理と偵察を任しているんだ」

 ロイクは自慢げに話す。

 

 飛行魔法。それは高等魔術の一つだ。それをこんな高速で、しかも沢山いる。

 レイドとカインはどうやらとんでもないところにやってきたようだ。

「さあ、さっさと着いてしまおう。お兄ちゃんが今帰るぞ~」

 ロイクがそう言いながら猛スピードで走り始める。


「ま、まってくれ!」

 レイドたちも後を追いかけるのだった。

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