第9話 化け物の因子

 レイドたち一行はバイセン領へ向け歩みを進めていた。

 コレル子爵から馬を貸そうと提案があったのだが、あいにくレイドは乗れない。

 身内から迫害された日々、そんなことを学ぶ余裕はなかったのだ。


「ここから歩いて2日ほどでバイセン領の領都、アミアンに着くだろう」 

 マリーは前を見ながら言う。


「なぜ、君がアミアンを目指しているのかは知っている。本当に敬語じゃなくていいのかい?」

「ああ、構わない。カインもそんなノリだろう」

 レイドはカインを見る。


「あ? なんか文句あんのか?」

「だ、そうだ」

「はは・・・」

 マリーは苦笑いだ。


「バイセン家は4人家族でね、長男と長女しかいないんだ。だけど家族全員が化け物みたいに強いらしいけどね・・・」

 バイセン領は森に囲まれている。昔から外国の侵略や、森からやってくる魔獣たちを退けてきた貴族らしい。


 もともと強力な魔獣が出現していたが、バイセン家が徹底的に狩りつくしたため、理解のある強い魔獣は森に引っ込んで出現しなくなったらしい。

 だからこの街道も使用することが出来るのだ。

 

「それにしても何もねえな、ここら辺は」

 カインがそうつぶやく。

 辺りは森で囲まれている。アミアンまで本当に何もないそうだ。


「そうだな。だが、アミアンは凄い街だぞ? 私は一回行ったことがある」

「何がすげえんだ?」

「各地に魔導兵器が設置されていて、常に大量の魔導士が空を飛びまわっているんだ。あんなに武装化されているのはあの街くらいだろう」


「さらに、魔獣の希少な素材を手に入れるために、数々の狩人が世界中から集まっているんだ」

「へえ、早く行って見てみてえなあ」

 カインがうなずく。

 レイドたちはしばらくの間、そんな話をしていた。すると・・・



 ゴオオオオオン!!!

 突如として轟音が鳴り響く。

「な、なんだ!」

 マリーが身構える。敵襲かもしれない。


「ギュラララララ・・・」

 レイドたちの前に現れたのは、巨大な赤い竜。

「なんで、こんな魔獣が・・・」

 

 この赤い竜は非常に強く、かの口から吐き出される灼熱の炎は骨も残さないという。

(まずい! このままだと死んでしまう!)

 レイドはとても焦る。

 赤い竜の口が開く。

 そのまま、灼熱地獄に・・・ なんてことは起こらなかった。どうやら、様子がおかしい。


 全身に傷があり、息も絶え絶えのようだ。

「ギュララ・・・」

 そのまま、赤い竜は轟音と共に倒れてしまったのだ・・・


 理解が追い付かないレイドたち。なぜいきなり赤い竜がここに現れ、そしてそのまま倒れてしまったのか・・・ 

  

「やあ、大丈夫かい? 旅の者たちよ」

 空から声が聞こえてくる。

「誰だ!」

 マリーは再び身構える。


「ちょっと街道に近かったから処分してたんだ。すごく抵抗してきてさ、逃げ回られたんだよねー」

 空から青髪の少年がやってきたではないか! 彼は平然と話す。


(そんな! 災害ににもなりうる竜を平気で倒すだと!? なんだこいつは・・・)

 レイドは冷や汗をかく。こんな化け物、もしかしたら・・・


「・・・貴方の名前は?」

 マリーがそう問う。

「僕の名前? ロイク・バイセンさ。ここを治める貴族の一員だよ」

 ロイク・バイセン・・・ エレーヌの兄にあたる。

 化け物の噂は本当だったんだ。


「さあ、君たちも名乗るんだ」

 ロイクはそう言う。


「マリーだ・・・」

「カインです・・・」

 カインはおびえている。

 

「レイド・フォn」

 レイドも名乗ろうとするが、途中で止められてしまった。

「ああ、もう良い。レイド・フォン・ユーラルだろ」

 ロイクはやはり気付いたようだ。


「ふふふ、君か・・・ 僕の可愛い可愛いエレーヌの婚約者ってやつは! こちらへ来るという話は聞いてはいたが・・・ どうやら手間が省けたようだね・・・」

 おぞましい悪意がロイクから漏れ出る。


(おいおい! 手間ってなんだよ!)

 レイドは命の危険を感じる。

「本来ならばここで消し飛ばしているが・・・ 君の名声は聞き及んでいるよ。リヨンの救世主だって? それに免じて、一応家までには連れて行ってやるさ」

 ロイクはため息をつきながらそう言う。


 まさか、リヨンを救ったことがここで役に立つとは。

「あ、ありがとうございます?」

 一応お礼を言っておこう。


「で、そこの二人は君の仲間かい?」

 ロイクはカインたちを指さす。

「はい。カインが私の連れ添いで、もう一人のがリヨンから護衛を担っています」


「・・・じゃあ、その護衛さんはここでお別れだね、ここからは僕が代わりをするよ」

 彼女をこれ以上付きまわすのは悪い。まあ、ほぼ強制というのもあるが・・・


 レイドは彼女に振り向く。

「・・・いままでありがとうな、マリー。また会おう」

 レイドとマリーは握手をする。


「・・・ああ、私も今回が一生の別れではない気がする。 ちゃんと生きておくんだぞ?」

 彼女はロイクの方をちらっと見て言う。

「ははは・・・」

 そうして、レイドたちはマリーと別れたのだった。


「うーん。随分とあっさりした別れだったねえ」

 ロイクはあくびをする。

(お前が強引に別れさせたんだろ!)


 そんなことはもちろん言えない。

「さあ、カイン君も来るんだね」

「う、うっす・・・」


「レイド、君とはずっと話をしたかったんだ・・・ まあ、時間は沢山あるしね・・・」

 ロイクは悪意ある表情でそう言う。

 果たして、レイドは生き残ることが出来るのだろうか・・・

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