魔王様は平和でいたい3

魔族の住む土地は基本曇りだ。雨だって一部を除いてほとんど降らない。気温は寒くもなく暑くもない、そんなのが一年中ずっと続く。ごく稀に晴れる事もあるが別にこれといって無いければならないって程では無い、珍しいなと感じる程度だ。


魔族は個の力があるせいで団体で戦うということにあまり慣れていない。そしてここもまた魔族のダメな所なのだが、弱肉強食とまではいかないが、弱い者には結構当たりが強い。演習で指揮するものが自分より弱いと従ってくれないのだ。魔王軍自体が元々弱い種族ごとで過ごしたり孤独に過ごしていた者達を匿っていたのが始まりだった。たまに暴れた魔族を懲らしめたり集団で人間に襲おうとする奴らをとっ捕まえては監視を含めて魔王軍に引き入れた。基本的には弱い者は身を守れるように指導して、強い者は力を示して配下に置く。


今日はそんな魔族たちの演習がある日だった。最近はそこまで大きな事は無いが、個体で大勢を相手とっても負けないような者が現れる事だってある。そういった時に上手く対処できるように今のうちから訓練と演習をさせるのだ。こういった戦闘面はうちではラフターラが指揮している。かつては彼女に魔王軍を派遣して全滅させられた事もあった。私が討伐をしようとした時に非常に戦闘センスが良いと感じたため懲らしめた後にスカウトしたのだ。そして私の感じた通り彼女はやはりうちの中でも一番闘うことに慣れている。一対一はもちろん、一体多数、さらには多数対多数の戦闘もこなせるようだった。魔族たちの訓練、演習その他諸々戦闘面はほぼ全て彼女が指揮している。彼女は自分を頭が悪いと思っているようだがそれは単純に小さい頃からろくに教育を受けていなかったり彼女にあった勉強方法ではなかったというだけの事だと私は思っている。事実として彼女は魔王軍に入って私が教育を担当したが、常識だって知らなかっただけで教えれば守ってくれるし魔法の方もあまり使ったことが無かったそうだが少し実演して見せただけですぐに習得することがほとんどだった。彼女は理屈で覚えるよりも先に体で覚えていくタイプだったという事だ。そんなよちよち歩きもいいところだった彼女があんなに大勢の魔族たちの前で指揮をとっているのに少し感動を覚える。腕を組みながら

後方魔王面していると一通りの流れが終わったのか一旦休憩に入ったようだ。その際にラフターラとバッチリ目が合った。キュピーンという効果音が聞こえてきそうなほどガッチリロックオンされて、せっかくの休憩時間だというのに物凄い勢いでこちらに向かって走ってきた。と思えば数m手前でこちらに思い切りダイブしてくるものだから避けるわけにもいかず取り敢えず受け止めておいた。


「わーい、魔王さま〜!どしたんどしたん?もしかして〜、あーしに会いにきたとか?」

「お前は相変わらず元気だな。まあ散歩がてら様子を見に来たのもあるからあながち間違いでは無いな」

「やったー!あーしも魔王様に会いたいなーって思ってたんだよね、これって相思相愛ってやつ?」

「はっはっは」


皆の前に立って指導している時はやはりある程度の威厳も必要なので多少大人に見えるが、一度スイッチが切れて甘えるモードになってしまうとやはりまだまだお子様なのだ。


「あっ今なんか良くないこと考えたでしょ」

「なんだ、もう相手の心を読む魔法を身につけたのか。流石だな」

「誤魔化さないでよ!そんなことできるの魔王様ぐらいしか居ないでしょ」

「どうだろうな、お前は本当に才能があるから出来るかもしれないぞ」

「えっまじ、ってそうじゃなくって!」


どうやら彼女は子供扱いされるのを嫌っているようで、その気配を少しでも察知すると直ぐに怒り出す。その姿がまた可愛いからつい揶揄ってしまうというのもあるけれど。


「それより、みんなの様子はどうだ。結構マシになってきたか?ここ最近は特におかしな事も起きていないと聞いてるが準備をするのに越した事は無いからな」

「んー、まあ前と比べたらそりゃ動きもだいぶ良くなってると思うけど、それでも連携っていうとこだと全然だね。特に自分に自信を持ってる奴ほど連携=助けられるみたいに考えてる奴が一定数居て、俺一人でも出来るのに!って不満を持ってるみたいな感じ」

「最近の奴らは助け合いの精神があんまり無いからなあ、そういった思想のようなものはそう簡単に変えられることではないから長い目を見てやっていくしかないんだが、いかんせん不満をずっと募らせるのも良くない」

「たしかに、現にまだなんとか爆発はしてないけどそのうち集団で反乱みたいな事されかねないんじゃないって思うね」

「そういう奴らは野に放つと人間たちに襲撃しかねないからな。ちょっと対策を練ろうか。取り敢えずはこっちが何かしようとしていることがバレないように普段通りに過ごしててくれ。何か決まったら私が直接伝えるか、シニメノを経由する」

「できれば魔王様からが良いなー、なんて」

「分かった、そうしよう。お前は普段からかなり体を張ってもらってるからな。多少のわがままなら全然聞いてやる」

「本当?じゃあ今度子供作ろ!」

「それはダメだ」

「えー、何で?子供作ろうよー。絶対可愛いしめっちゃ強い最強赤ちゃんなの間違いなしなのに?」

「前から言っているが私は誰とも子を作るつもりはないと言っているだろう?」

「別に減るもんじゃないし良くなーい?私めっちゃ安産型だよ!ほら!」

「こら、はしたないからやめなさい」


こちらに突き出しているラフターラの尻をペシッと叩く。彼女は納得のいかないような顔をして渋々元の格好に戻す。彼女のアピールはかなり直球で周りが見たら勘違いしてしまいそうだから早々にやめさせないといけない。それにまだまだお子様な彼女には子供を持つというのは早すぎるだろう。


「もー、わがまま言って良いって言ったのは魔王様じゃん!」

「多少の、と言っただろう」

「ケチ!」

「ケチで結構。話を戻すが色々決まったらまた伝える。それまでは普段通りの指導と、何か変な動きがないかの監視を頼む」

「はいはーい、魔王様からのお願いだからね。あーしも頑張るよ」

「ああ」


ちょうど休憩も終わりだ。これ以上引き止めるのも悪いのでさっさと離れて対策を練りに行こう。やはりこういう時はシニメノだろう。今日の散歩はここくらいで終わりにして、あとは彼女と今後についての話をしに魔王城へと戻ろうか。

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