凶戦士は魔王様を倒したい2

「はあ、はあ、はあ!」


うまく呼吸出来てるのかも分からない。魔王を殺さないといけないって言っても方法が全く浮かばない。あーしは魔法を使えはするが誰も教えてくれなかったから初歩的な魔法しか碌に扱えない。攻撃の要はこのでっかい金棒と兎に角殴るだけだ。そのためには近寄らないといけない。今はずっと50m前後の距離を取られ続けている。あーしのリーチは大体5m。どうにかしてここまで距離を持っていかないとジリ貧だってのはバカでも分かる。でもどうすりゃ良い!?


「よく耐えてるじゃないか。体の大きさに反して俊敏な動き、間髪を入れずに放たれる私の魔法に対して最小限かつ最適なルートで避け続けている」


避けるのに集中し過ぎてもうあいつが何言ってんのかも聞き取れねえ。疲れた、もうやだ、でもそんなこと言ってられねえ。こうなったら賭けに出るしかない。


「それでもそろそろ体力が尽きる頃じゃないか?大人しくしてくれれば痛くはしないぞ」


来る。集中しろ。とにかく距離を詰めるだけの隙を作らせるんだ。相手が勝ちを確信したその瞬間、どんな奴でも慢心するもんだ。狙うならそこしかない。避ける。けど今まで通りただ避けるだけじゃない。当たってはいないものの、避けた後に少し身体のバランスを崩してしまうような、相手からしたら絶好の仕留めどき。


「ああ、もうお終いか」


やはり来た。避けた先、前のめりで倒れそうな姿勢でいるあーしの足を狙ったもの。あーしは右足で思いっきり踏み込みそのまま一気に距離を詰める。地面がめり込むぐらいの力であれば50mの距離なんてすぐ縮められる。あーしの右足を犠牲にすれば。膝から下がスパッと綺麗に無くなっている。痛みはない。まるで初めから存在していなかったかのような感覚さえする。それはともかく、攻撃が届く。勢いをそのままに全体重をかけて金棒を振るった。当たった感触はあった。けど何かが違う。やったという感触ではなく、ただ何か固いものに当たっただけのような。


「は?」

「本当にすごいな君は。魔法も無しで私に対してここまで応戦してくるやつが居たなんて」


防がれたのだ。よく分からない透明な壁みたいな存在に。ついでに思い切り振り切ったせいで金棒は二つに折れてしまった。右足を無くして武器も壊れて、バカのあーしでも分かる。これは負けだ。もうどうしようもない。そう思ったら一気に体から力が抜けていった。そりゃそうだろう。普通だったらとっくに魔力切れを起こしてるところを何とか鞭打って無理やり動かしてたんだ。もう指の一本も動かせやしない。潔く殺される事にした。死ぬのは怖いけど、なんか初めて本気で誰かと戦えた気がしたし、ちょっと楽しかったからまあ良いかって思った。


「おや、ようやく大人しくなったか」

「もう動けないからな。さっさと殺せよ。大人しくしてたら痛くしないんでしょ?」

「うーん」


何だ。急に腕を組んで唸り出した。正直言って喋るのも辛いから殺すなら早く済ませてほしい。なんて思ってたら魔王はいきなり訳わかんないことを言い出した。


「今うちかなり戦力不足なんだ。まあ君に部隊丸々一つ殺されたのもあるが、そもそも彼らは弱すぎる。一体一体の能力もそうだが統率がまるで取れてないんだ」

「はあ」

「君は本当にセンスがある。君一体だけで魔王軍総出でかかっても正直負けると思っている。

何より君は私に攻撃が届かなかったにしろ一発入れているんだ。見たところ、まだ30年そこらの子供だろ?どうだ、うちに来ないか?」

「はあ?」


何だ、何なんだ?さっきまで本気で殺されかけていて、あーしも本気で殺しに行ってたやつに、一体何がどうなって勧誘されるんだ?


「あんた本気で言ってる?」

「私は嘘をつかない」

「つーかあーし今死にかけなんですけど、誰かのせいで」

「それはまあ、一応今回君の討伐が目的だったからね。懲らしめたって事にしておけば大丈夫だろう。それにそのくらい私が治す。どうする?そのまま死ぬか、魔王軍に入って生きるか」


そんなの実質一択じゃないか。プライドとかいうものが無いあーしは生きられるのなら何でも良い。


「入る。だから早く治して。まじで死にそうだから」

「うん、良い返事がもらえて何よりだ。それ」


手を軽く振ったと思ったら、身体が一気に熱くなった。もしやさっきのやり取りは全部嘘でこのまま焼き殺されるのかと思ったら徐々に熱が落ち着いていった。指を動かす。体を起こす。何でか分かんないけど消えたはずの右足まで生えてる。


「すげえ」

「伊達に長生きじゃ無いからな、これぐらいは出来るさ」

「あんた何歳?」

「女性に年齢を聞いてはいけないよ。なんてな」


はっはっはと笑っているが普通に誤魔化された。長生きだっていうんだったら1000年は生きてるのかな?


「魔王軍に入ったって、あーし何すんの?戦うしかできないけど」

「そうだな、まずは教育から始めよう」

「教育?」


魔王軍に入って早々、あーしは常識を教えられた。親に捨てられてろくに魔族とも交流してなかったから普通ってのをよく知らなかった。誰かにして良い事悪い事、自分がやりたいからやるだけではいけないんだと教わった。集団で生きていくってめんどくさいなって思ったけど、魔王様がバカのあーしに根気よく教えようとしてるから取り敢えず頑張った。それから燃費の悪すぎる体質に関しては、なんかちっこいサキュバスのやつに色々実験されて、前よりはマシになった。後はそもそも魔王城、ていうか魔王様の近くは魔力がずっと溢れてるからすごい暮らしやすかった。そういう事もあって今まであんまり使わなかった魔法も習った。魔王様曰くこっちの方もセンスがあるって言ってくれているから頑張ろうと思う。


「ラフターラ、魔王軍に入ってそれなりに経ったが、どうだ。楽しいか?」


楽しい、と言われると分からない。でも一人で森の中にいた頃よりは良い気がする。


「まあ、それなりに」

「なら結構。お前はまだまだ子供だからな。甘えられるうちに目一杯大人に甘えるといい。それに、ひとりぼっちは寂しいだろ」


そう言ってる魔王様の方が寂しそうだった。あーしはバカだから分かんないけど、こういう時ってなんか言った方がいい気がする。


「あーしは子供じゃないよ」

「子供だろう」

「魔王様よりおっきいし」

「それは種族的なものだ」

「じゃあどうしたら子供じゃなくなるの?」

「そうだな、歳を重ねることと、今で言うなら子を持ち親となったらじゃないか?」


前者は今すぐには出来ないがが、後者なら簡単だ。気を抜いている魔王様に覆い被さって押し倒す。


「じゃあ魔王様子供作ろーよ」

「何だって?」

「そしたらあーしは子供じゃないって証明できるし、家族ができたらひとりぼっちじゃないでしょう?」

「君は気が早すぎるよ。私は誰とも子を成すつもりは無いんだ」

「どうして?」

「そんなことはどうでも良いだろう。さ、悪ふざけはここまでにして、君はまだ学ぶべきことが沢山あるだろ?ほら」


ひょいとどかされてしまって、何だか呆気ない。魔王様はこれ以上話す気は無いみたいだし残念だ。とっても良い案だと思ったんだけどな。

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