エピローグ
エピローグ
ドン――――――。
衝撃音が暗闇の中響き、刀太さんは尻もちをつく。私も彼の後に続いて
納戸さんの前には、暗闇でもわかるほど真っ赤な肉塊が広がっていた。全身を血で覆われた納戸さんは、虚空を見つめるようなどす黒い瞳と荒い呼吸のまま、肉塊を見つめている。
「
刀太さんは立ち上がり、納戸さんに詰め寄る。微動だにしなかった納戸さんは、この時初めてこちらを向いた。その暗い瞳が、そのやつれ切った表情が、私の胸に突き刺さる。
「バカ野郎!!!」
刀太さんの右の拳が、納戸さんの頬を殴り飛ばす。納戸さんはよろめき、力なく背後に倒れた。
「何で……何でそんなに……」
歯を食いしばった刀太さんは、二発目を構えたまま、動かなくなった。
「何でそんなに……悲しい顔してんだよ……お前」
納戸さんは、刀太さんを見て、小さく謝罪する。
「……ずっと謝りたかったんだ」
「何がだ!」
「俺は……お前の夢も、護ってやれなかった。俺は……何も護れやしない」
「何を……ッ!」
「お前と再会した時……約束を思い出していた。お前は覚えていないかもしれないが、俺はお前の夢を護ると誓った。なのに……あの庵で孤独に耐え、一人刀を作っているお前を見たとき……どうしようもなく己を恥じたんだ。お前はまだ諦めていないのに、俺はとっくに諦めていた。だから、謝罪したかった」
「覚えているよ」刀太さんはそう言って、感情が爆発し、涙を流した。肩が何度も動くほど、嗚咽を漏らして。
雨が、私たちの心に冷たく打ち付ける。しばらくの間泣いていた刀太さんは、血まみれの納戸さんを見て呟く。
「……だったら、昔のお前に……戻ってくれよ」
それを聞いた納戸さんの肩がわずかに動く。
「愚直で天然で、必死なお前に……カッコいいお前に、戻ってくれよ」
「……それはできない。もうこの汚れ切った手では、何も護れやしないんだ」
納戸さんはふらふらと立ち上がると、私の横まで来る。何も言うことなく、屍のように歩く納戸さんは、私の傍を素通りした。
そんな彼に―――私は何も声をかけられなかった。込み上げてくる悲しみが、納戸さんの悲しみが、この冷たい雨のようだと、心の底からそう思った。
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