第17話

さて、練習に来た明子ちゃんはずっと同じ体勢だったので体が痺れていたようだったが、暫くするとモゾモゾと動き始めた。

そして朋子も目覚めたのか、ラバースーツのまま、リビングに現れた。


「あれ、亮さん来てたんですか?明ちゃんは?」

朋子の位置からはソファーの陰になり、明子ちゃんが見えていなかったようだ。


動く赤いマネキンに亮が話し掛ける。

「今日は明子、これに入って来たんです」

そう言ってスーツケースを軽く叩いた。

朋子は俺の横に座ると、前屈姿勢でスリーピングバッグで真空パックされたまま動かない明子ちゃんの体を揺する。

足が痺れているらしく「ちょっと、朋ちゃん触らないで!」と少し怒った風だ。

さっきから、動かないでいたのではなく動けなかったのだと気づいた。


朋子は明子ちゃんのすぐ横にある布団圧縮袋に気づいた。

「これで圧縮されてたの?」

朋子の声が弾んでいる。

「私もやりたい!」

“やっぱり“

俺は心の中で呟いた。


朋子は俺に掃除機を持ってくるように指示し、その間に布団圧縮袋に入ると、俺が戻ってくる頃には亮にジップロックを全て閉めさせていた。


「なあ、朋子!」

俺が話しかけるのを遮って、「さあ大和、吸っちゃって!」と楽しそう。

掃除機のスイッチをオンにし、布団圧縮袋の空気を抜いていく。

あっという間に中の空気は吸われて、透明のビニール袋にラバースーツの赤い肌が張り付く。

空気を吸い切った掃除機が今までとは違う音を立て始めたので、スイッチを切った。


朋子は体育座りのまま、ゴロンと横に倒れてほとんど身動きが取れない。

動かせるのはせいぜい足先くらいだった。


その様子を目を大きくし、言葉なく凝視する亮。

亮もかなりの好きものとみた。

時々、手が股間の方へいくので、勃起しているようだ。


ようやく静かになったので、先ほど俺が伝えたかった事を朋子に伝える。

「これ、真空にすると、声はほとんど出せないし、呼吸できないぞ」と。

それを聞いた朋子は途端暴れ始めた。

呼吸出来ない事にプチパニックを起こしたのだろう。

慌ててジップロックを開いて、新鮮な空気を入れてやると必死に呼吸していた。

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