『ランク2』の少女(3)

 待ち時間はそれなりだったが、いざ窓口に呼ばれ、転入届を出してからは、わりとスムーズに手続きが進んだ。


 一連の手続きが終わって、区役所の職員から手渡されたのは……顔写真をはじめ、住所や生年月日などが記載された、一枚のカードだった。


「開発特区内でのみ有効の『DRカード』です。身分証明書になるのと同時に、特区内のサービスを利用する際には、このカードが必要になりますので、紛失などには十分、注意してください」


 説明を聞く限り、日本全国で普及しているマイナンバーカードを高機能にして、開発特区内で使いやすいようカスタムしたもの――といった所だろうか。


 裏面を見てみれば、一般的な身分証明書として必要な項目の他に、戦闘特区ならではの項目もあった。


 例えば『序列』。戦闘特区の住民は、一人の例外もなく、決闘による強さによって、順位付けされている。


 そして、ちょくちょく聞いていた『ランク』。フローラに絡んでいたあの男は、『ランク4』と自慢していたし、フローラは『ランク2』と言っていた。


 そして、俺のDRカードには――『ランク』と印字されている。


 ……ん? ランク6? ……俺が?


「あの。この、ランクって――ランク1から始まるものなんじゃ?」

「ランクですか? ああ、勘違いされる方、意外と多いんですよね。戦闘特区でのランクは『』によって決まります。序列は、特例でもなければ、一番下からのスタートですから……」


 再び、自分のカードに視線を移す。ランクの一段上にある項目、序列には、71万2180位――そう刻まれていた。


 なるほど、六桁。桁数がそのままランクになるので、俺はランク6という訳だ。


 それでは、さっき追い払った男三人のうち、リーダー格らしき男はランク4を名乗っていた。

 つまり、彼の序列は、1000位から9999位のいずれか、となる。


 同じランク4でも、上と下であれば、かなり差があるものの……人口全体で見れば、確かに上の方ではある。『オレはランク4だ』と言っていた、あの男の気持ちも分からなくはない。


 では。フローラは?


 ランク2。序列は二桁。つまり――10位から99位の間――となる。って、ちょっと待て……。


 ランクが一つ上の先輩? 勝手にそう思っていた彼女は――俺のとんだ勘違いで。


 実際は、戦闘特区の総人口、約71万人のうちの超上位層に君臨する――序列だけでいえば、ランク4のあの男が霞んで見えてしまうほどの――紛れもない、実力者だったのだ。


 ……じゃあ、俺がわざわざ手を出したのも、フローラにとっては余計なお世話だったのだろうか? そう思うと、なんだか急に、気恥ずかしくなってしまう。


 序列だけで、強弱を判断するのは野暮というものだろう。しかし、序列二桁と四桁では、戦って確かめるまでもない――というのは分かる。


 なんだか、急にフローラが、手の届かない、遠い存在に思えてきてしまったぞ……。


「――以上で、転入手続きは完了となりますが……他にご質問などは?」

「ああ、いえ。ありがとうございました」


 つい、あれこれ考えてしまった俺は――窓口の女性の声によって、現実へと戻される。


 ともあれ、手続きを終えた俺は、ついに正式な、戦闘特区の住民となった。……これで、幼い頃からの『願い』に一歩近付いた。限りなく小さな一歩ではあるが。


 区役所を後にする、この足取りも。一歩ずつ、確かに近付いているはずなんだ。


 俺が物心つく頃には、既に『統括特区』へと単身赴任していた――父さんに会うという、人生で最大の目標に。

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