王は呻く
「オブリオ・マジーア」
石の床に転がされていた我は、耳障りな女の声に意識を向ける。
「……いえ、
くすくすと笑う声。頭がぼんやりして、考えがまとまらない。魔力とともに、気力が身体から抜けてゆく。
わかっていたことだ。“聖女”ピエタの術は、巷間ささやかれているような癒しなどではない。他人の心を操り、穢し、貶める呪術。こいつの母親は、帝国の暗部を陰で操る“
「マジーア王国は、先王オブリオの崩御を発表する。皇太子カウザの即位とともに、帝国との軍事協定が結ばれる」
もう決まったこととでもいうように、ピエタは我へと告げる。いや、決まっていたのだろう。軍事協定とは名ばかりの、一方的な搾取と隷属が始まるのだ。
「……
建国から続く武家。王国を守る最強の盾。かつては友と思っていた男。その友誼を捨てたのは、我の愚かさと
「問題ありませんよ。イデア・シンティリオは大逆罪で裁かれ、シンティリオ家は
やはり、利用され用済みとなれば殺される運命か。愚王は死してなお、己と忠臣の名を穢すことになるわけだ。忌々しいが、驚きはしない。愚かなものが失い、弱きものが奪われるのは世の摂理というものだ。
すまんな、シンティリオの娘よ。エフェットを頼む。
「元・第三王子のエフェットも共犯として、斬首刑を宣告されます」
我の心の声が聞こえたか。偽りの“聖女”は嘲笑う。
「残念でしたね。亡き第三王妃クオーレの忘れ形見を、安全な場所に逃がしたというのに……」
停戦命令が間に合ってしまえば、辺境伯領は
身の内に帝国人を引き入れてしまったときから、すべてを失うことは決まっていたのだ。
気づいたときには手遅れだった。いつの間にやら浸食していた帝国の
流れに逆らおうとはしたが、押し寄せる帝国の暴流に抗うには、我が力はあまりにも脆弱だった。わずかな忠臣たちがひとりずつ陥れられ、引き剥がされ、消されてゆくさまを、歯噛みしながら傍観しているしかなかったのだ。
我は、どこで道を間違えたのか。後戻りのできない道は、どこから始まっていたのか。
王都よ、いっそこの身とともに燃え落ちてしまえ。
背後で剣を引き抜く音を聞きながら、我はどこにも届かぬ呪いの言葉を吐いた。
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