もののふ令嬢、突進す
わずかに高くなった丘の中腹で、不自然に街道をふさぐ二頭立ての箱馬車。四、五百
服装は商人に見えなくもないが、体格がゴツすぎる。五人が五人とも顔を伏せ、後ろ手に武器を隠しておるのが怪しすぎじゃ。
「あれは、敵ですよね?」
この街道を北に行ったところで、二頭立ての箱荷馬で利鞘が稼げるような栄えた街は二百数十
「
わしがそういうと、幼き巨人は小さく笑う。
「安心しました」
懐から取り出したのは、弾体を射出する
「
「魔導防御に対するものは、七発。ですが、雑兵相手なら石でも使えます」
エフェット殿は言葉通り、
「速度はそのままでお願いします」
「了解じゃ」
ぺん、と打ち出された石は一拍置いて、馬車の前にいた男の頭を砕く。魔力を絞ったのか、速度は
それでも当てるのは流石としかいいようがない。
ふたり目は腹に石弾を喰らって転がり、くぐもった悲鳴をあげて悶絶する。
隙をついて突進してきた三人目は、胸を貫かれて倒れる。その手からこぼれ落ちたのは、短く無骨な
「もうよいぞ、
三人目を屠ったところで、残りの二人は逃げに入った。となれば追いかけてまで殺す必要はなかろう。
いま必要なのは北上する使者を止めることであって、敵勢力の殲滅ではない。
とはいえ、敵の出てくるのが早すぎるような気はするのう。最初の騎兵たちも、いまの連中も。武器や装備が帝国のものじゃ。
「王国内に入っとる帝国軍兵士は、どれほどおるのかの」
「王宮で把握している数字では、百を少し超えるほどかと」
親帝国派閥の貴族たちが私兵として抱えている平民のなかに、装備や流儀の違う者たちが混じっているらしい。
わしの知る限り、帝国軍部隊が辺境伯領を
そんな連中が南部の王都周辺に集まっておるという事実が、この国の病巣を表しとるのう。
わしらは馬車の横をすり抜け、街道を北へとひた走る。ここに網を張るとしたら、足止めじゃ。道をふさぐための箱馬車も、五人しかおらん伏兵も。急ごしらえで場当たり的じゃの。使者はそれほど先行しとらんのかもしれん。
「少し急ぐぞ」
「はい!」
わしは木馬に魔力を込め、速度を上げた。
苦しげにモジモジしとるようじゃが、いまのわしには目を向ける余裕がない。派手に揺れ回る木馬を、まっすぐ走らせるので精一杯じゃ。ちょっとでも操作を誤れば、道から吹っ飛ぶ。
「すまん、もう少しの辛抱じゃ!」
「え……は、はいッ!」
なんでか声が裏返っておるな。チラリと目を向けると、上気した顔で息を喘がせ、目を泳がせておった。
「どうしたんじゃ、坊! 熱でも出よったか⁉︎」
「ちが、むね……いえ、あの……だいじょうぶ、でふ!」
見たところ、警戒するべき事態ではなさそうじゃが……。
わからん。なにをアタフタしておるんじゃ?
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