聖女は踊る
王城の最上階。王と王妃だけが暮らすはずの豪奢な部屋で、“聖女”ピエタは長椅子にしどけなく身を横たえていた。
目の前には、第二王妃パウーラ。あからさまに不遜なピエタの態度を見ても、なんの表情も表さない。“聖女”の名を持つとはいえ公爵家の令嬢でしかないピエタだが、母親は皇帝の実妹。帝国内での思惑も合わさり、
そして、帝国の属領になることが決まったこの国で、もう王国内の身分差は意味を持たない。
「マギーアの
ピエタの問いに、パウーラは無表情で答える。
「懲罰塔に幽閉しました。
「そして用が済めば
カウザは、帝国の意のままに操られる
王国にも、王国に遣わされた下級皇族たちにも。
「失礼いたします」
宮廷魔導師団長が、ピエタに報告を行う。嘲笑うような笑みを浮かべたままの顔が固まり、怒りと憎しみに変わる。
「仕留め損ねた? あの無能を?」
「は。イデア・シンティリオの妨害が、あったのではないかと。あれは
「あいつも同じ
「王国騎兵も含めれば五十三。増援を行いますか」
「追撃は不要。
「は」
命令を受けて宮廷魔導師団長が下がると、“聖女”ピエタは第二王妃パウーラに目を向ける。笑みを浮かべてはいるが、目だけはまったく笑っていない。
「嬉しそうね、
「とんでもございません。皇姪様」
「この程度で、計画は変わらないわ。
「ええ。違いがあるとしたら、“
ピエタたちが取り逃がした第三王子の名に重ねて、パウーラは微笑みとともに挑発する。
案の定、激昂したピエタはどす黒い顔で睨みつけてきた。この小娘に堪え性がないことくらいは、誰にでもわかる。自分の求めるものは得られて当然と思って生きてきたのだ。
傲慢な無能は、不確定要素に弱い。愚かで浅慮な自分の息子には似合いの女だと、パウーラは腹のなかで笑う。
「……ふっ」
そこで、ピエタは急に吐息を吐いて怒りを消した。感情と思考を切り離したのだ。パウーラは小娘の本性を、読み誤っていたと知る。
「他人事のようにいうのね、第二王妃。“
逃げられないことなど、わかっていた。忘れたいことも、逃れたいことも。すべてがパウーラを縛る枷だ。
「
不遜な態度を取り戻したピエタが、唇だけを笑みのかたちに歪める。見据えてくるその目には、光も感情もない。まるで襲い掛かる前の
ピエタは顔を近づけ、恐怖の臭いでも嗅ぎつけたかのように小さく鼻を鳴らした。
「
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