もののふ令嬢、抱擁す
エフェット殿が取り出した奇妙な
検証機だという木馬の【
十一やそこらの
あの魔法陣の先進性は、体内循環ばかりで外部放出ができぬ
単純で明快な理論は、無限の可能性を秘めておる。
木馬が動かせるのであれば、使用者の魔力と魔圧しだいで、もっと大きなものも動かせる。わしが思い付いたのは、小さな城に車輪をつけたものじゃ。いかな強者も害せぬ存在が自陣に向かってくるなど、悪夢以外のなにものでもない。
しかしそれは、しょせん凡夫の発想。かの鬼才は、同じ
「……ふむ。
「はい!」
わしが問うと、元王子は子犬のような笑みを浮かべる。わしは抱き寄せて撫で倒したくなるのを、必死で堪える。
その顔が、すぐに
エフェット殿の手元で発光した魔法陣に刻まれたのは、わしの読み取れる限り“
わしにはない発想じゃの。やはり、こやつは恐るべき才の持ち主じゃ。
「「うおおおおおおぉ……!」」
突っ込んできた騎兵が、もんどり打って馬から落ちる。銀甲冑の胸には、
「なんだ、これは……ッ!」
騎兵たちの叫びは、わしの思いでもある。
あらゆる
己の目で見てもなお、信じられん。
「……化け物」
「ぬ?」
騎兵たちの半数以上を
「ずっと、そうでした。わたしが力を示さなければ無能と
わしは笑う。
「弱者からすると、強者はすべて化け物じゃ。わしも戦場で、聞き飽きるほどにいわれたわ」
射出式の
「見事な
いっておる間に騎兵たちは矢の間合いから槍の間合いへと近づいてくる。その正面に立ち、わしは鞘を払う。
「……え?」
鞘から抜いたわが剣に刀身はない。何かの間違いかと狼狽えるエフェットに、わしは微笑みとともに告げる。
「まあ、見ておれ。……秘剣、“無刀”ッ」
剣の間合いへと入った敵に、わしは全力の斬撃を加える。
我が身の魔力を剣へと流し込み、振り抜く一瞬だけ刀身を生み出す。空振ったような風音だけを残して、動きを止めた騎兵たちの身体が武器甲冑ごと
「……す、ごい」
ほんの数秒で、十数名の騎兵は血飛沫と共に沈んだ。身に降りかかる飛沫を避けて剣を納めたわしを、エフェット殿はキラキラした目で見る。胸の内が淡く甘く熱を持つ。抱き寄せたい衝動に必死で抗う。
イカンのう、この御仁はわしをダメにする。
「ぬしほどの知識も技術もないがの。わしが
鞘に納めた剣の
エフェット殿が生み出した【
「数百は打ってみたんだがのう。あいにく、物になったのは二振りだけじゃ」
「ぼくもです」
屈託ない笑みを浮かべて、エフェット殿は木馬を示す。
「これも、数百の失敗から生まれました。何度も諦めかけて。何度も絶望して。でも」
わしを見る目は、眩いほどの光を
「最後に理想へとたどりつけば。それは失敗ではありません」
心が折れねば、敗けではない。
それはシンティリオ辺境伯領で皆が胸に抱く信条じゃ。なにを喪おうと。誰が倒れようと。決して諦めぬ、もののふの生き様。
わしは我慢ができなくなって、エフェットの細い身体を掻き抱く。
「わっ! い、イデア、嬢⁉︎」
「もう離さんぞ。ぬしは、わしのもんじゃ。誰にもやらん」
幼子が駄々をこねるようにいうと、腕のなかで坊がくつくつと笑った。
抱き返してきた腕は、思ったよりもずっと強く優しく。
「ぼくも、離しません。やっと見つけた」
その声は澄んで、まっすぐに甘い。
「
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