もののふ令嬢、対峙す

「大概になされよ」


 王太子を見据えるわしの声に、玉座の間が静まり返る。

 王族を守る近衛兵たちは、武器に手を掛けて身構えておる。王族同士の争いに手を出すわけにはいかんかったんじゃろうが、臣下わしの介入となれば話は別じゃ。

 玉座の王はといえば兵を止めるでもけしかけるでもなく、腑抜けた顔のままでなんの反応も見せん。これはつまり、じゃな。


「立てるか、ぼん


 倒れていた幼き王子に手を貸し、起き上がらせて服の埃を払う。ちんまりした子犬のようなわらしではあるが、見た目よりも鍛えておるようじゃ。触れた手から感じられる魔力は強く、魔圧も高い。大した怪我もしておらんのは、魔導無能者ティミドならではの魔力循環による身体強化か。


「うむ、よき男子おのこじゃ」


「……あ、ありがとう、……ございます?」


 これは、僥倖ぎょうこうであったかの。そう思っていたわしの背後で棒切れが空を切り、頭に叩き付けられる寸前で止まる。

 カウザは振り下ろした魔術短杖バケッタが指二本で押さえたられたのに驚いておるが、驚くのはこちらの方じゃ。


わらしの次は、女子おなごつか。ご立派な王太子じゃの」


「き、貴様ッ、なにをした!」


「愚問ですな。玉座の間で攻撃魔法を放つなどというを、見かねて止めたまでのこと」


「わたしの魔術短杖バケッタに、なにをしたのかと訊いている!」


 自分のことであろうに、見ておらんかったのか。あるいは見てもわからんほどの阿呆か。


「さあ。女子おなごの指が触れただけで壊れたのだとしたら……」


 わしは王太子の目を見て笑う。


だったのでしょう」


 杖と相手を重ねるようにいうと、王太子の顔がみにくく歪んだ。


「貴様ッ!」


 王太子は必死に杖を取り返そうとするが、抜けるどころか微動だにせん。そもそも魔導師は距離を置かねば戦闘たたかいにならんのじゃ。懐に入られれば勝てんことくらいは、知っておって当然なんじゃがの。


「くッ! くそッ! なんなんだ、貴様はッ!」


 ダラダラと汗を流し息を荒げながら吠えるが、誰も止めず助けにも入らん。それを見るだけで、こやつの人望がうかがえるというものじゃ。


「近衛兵! なにをしている! こいつを殺……ぐぇッ!」


 わしが指を離すと、すっぽ抜けた王太子は杖ごと転がって軽い音を立てる。

 王族が自分の敵わない相手に向き合うとき、部下や臣下を動かすのは間違っておらん。判断が遅すぎ、戦力の読みが甘すぎるだけじゃ。


「笑わせてくれますな」


 武器を構えて近づいてくる近衛兵たちは、驚くほどに戦意がない。見た目は無手の令嬢でしかないわしを、排除すべきか説得すべきか迷っておるのか。王族を守るためならば手段なぞ選んでどうするんじゃ。


「お飾りの兵に、を、教えて差し上げる」

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