もののふ令嬢、王子を娶る! ――魔法無能者と虐げられていた少年王子は、魔法王国の至宝でした――
石和¥「ブラックマーケットでした」
もののふ令嬢、登城す
「シンティリオ辺境伯家令嬢。お待ちを! どうか、お腰の
「断る」
王宮の廊下を
いまにも王国北部が戦場になろうというときに、北端の辺境伯領から七百
これで
「登城の際に武器を預けることは……」
「
「ですが」
「鞘と柄は、規定通り
彼らとて、事情は察しておるのじゃろう。その上で手荒な真似をせんのは、我が家門を
「貴君らに恨みはないがの。我が
そう告げると、兵たちは黙って引き下がった。
それでよい。ただでさえ面倒な予感がしておるんじゃ。さっさと済ませて帰りたい。とはいえ、そうもいくまいな。呼び出しを受けた玉座の間までやってきたとき、なかからゴチャゴチャと揉める声が聞こえてきよった。
扉に手を掛けるが、なかから押さえておるようじゃの。はるばる呼び寄せておいて何様のつもりじゃ。怒りにまかせて蹴りつけると、分厚い扉は砕けて吹き飛ぶ。
「イデア・シンティリオ、王命により参上つかまつった!」
転がった従者たちを踏み越え玉座の間に入ったわしを、誰もが恐ろしげな顔で見よる。
王都の貴族どもが群れておる先で、玉座の前では茶番劇が繰り広げられておった。
「
わしは小さく溜め息を吐く。揉め事どころの話ではない。この上ない厄介ごとの真っ最中ではないか。
「兄上。それは、どういうことでしょうか」
「ふんッ、なんと愚かな! ハッキリ言わねば分からんのか!」
玉座の前でふんぞり返っておるのは金髪の優男。立太子の式典で見た、お飾り王太子のカウザ殿下じゃな。対しておるのは、幼げな顔をした
「我がマジーア王国は、誇り高き
がなり立てる王太子カウザの隣で、どこぞの小娘が胡散臭い笑みを浮かべる。
「わたくしも残念ですわ。成人となる十五の歳まで待つというお話も出ておりましたが、本当にあと四年も待つ必要があるのかと……」
「その通り! そしてピエタ嬢は、十四歳にして聖魔法の覚醒を見た! この国の“聖女”となる才媛と、
どうでもいい話と聞き流しておったが……案外これは闇が深そうじゃの。
ピエタという名で思い当たるのは、カプリチオ公爵家の長女。カプリチオといえば王国南部に集まる
その長女が突然、癒しの力に目覚めたとの噂が貴族の間に――いくぶん無理な広め方で――飛び交っておったが、いつの間にやら聖女にまで祭り上げられたとは。
「陛下の決定であれば構いません。王族の婚約など、
「黙れ無能!」
なんと、
あやつ、齢は十七、八だったはずじゃが、まさか十やそこらの弟を
「貴様が決められる立場だとでも思っているのか! 這いつくばって許しを乞え! 薄汚い
言っていることが無茶苦茶じゃの。激昂して殴り、蹴り続けるさまも正気の沙汰とは思えん。
国王はなにをしておるのかと玉座を見れば、魂が抜けたような表情でぼんやりと騒ぎを眺めるばかりじゃ。立太子の後に病を得たと聞いたが、あれは寿命じゃな。気力が萎えかけておる。人としての命はわしの知るところではないが、王としての命脈は尽きたようじゃの。
それより気になるのは、わしがこの場に呼ばれた意味じゃ。
「貴様などは生きていること自体が罪なのだ! わたしがこの場で、報いを与えてやる!」
気の触れたようなことを喚き散らしながら、王太子は幼い弟王子に
わしは踏み込みざま、王太子の持つ杖の
「なッ⁉」
魔珠が粉微塵に吹き飛んだことで王太子は息を呑む。
「大概になされよ」
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